最も深刻なグローバル環境リスクの一つである気候変動の緩和対策として、シチズングループでは、温室効果ガスの排出量削減のため工場、オフィスにおける省エネルギー活動や再生可能エネルギー由来電力の導入にグループ全体で取り組んでいます。
気候変動緩和の表明として、「気候変動イニシアチブ」に参加し、2020年にはTCFD提言にも賛同しました。また、2022年には、グループのCO₂排出量削減目標(スコープ1、スコープ2、スコープ3)を改定し、改定した目標についてSBT認定を取得しました。なお、気候変動による大規模災害発生時の適応対策については、災害BCP(事業継続計画)の中で定めています。
気候変動リスクと機会
ガバナンス
シチズングループでは、環境経営を効率的に推進するための、環境管理体制を構築しています。シチズン時計社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」の傘下に、社長から任命された取締役(環境担当役員)を委員長とする「グループ環境委員会」を設置しています。
気候変動の問題は、グループ環境委員会で議論され、サステナビリティ委員会による討議を経て、経営会議で審議・承認されます。経営会議で承認された内容は、定期的(年2回)に取締役会へ報告され、環境リスクへの対応や環境投資の意思決定に役立てられています。
シチズングループ環境管理体制図
シナリオ分析
シチズングループでは、気候変動に伴うリスクと機会は、自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、以下のプロセスを通じて気候変動に伴うリスクと機会を特定し、サステナビリティ委員会事務局が中心となり、1.5℃シナリオおよび4℃シナリオを用いて分析し、重要性を評価しました。
気候変動に伴うリスクと機会の特定プロセス
プロセス1
気候変動に伴うリスクと機会を網羅的に抽出しました。
プロセス2
抽出したリスクと機会について、「時計事業」「工作機械事業」「デバイス事業」「電子機器他事業」の4つの事業との関連性および短・中・長期の3つの時間軸で整理しました。
プロセス3
整理したリスクと機会について、「自社にとっての影響度」および「発生可能性」について、5段階評価を行いました。総合評価として、「自社にとっての影響度」と「発生可能性」が共に高い項目を抽出し、重要なリスクと機会を特定しました。
気候変動シナリオの選択
脱炭素社会に向かう1.5℃シナリオと温暖化が進む4℃シナリオを用いて、分析、評価を行いました。
1.5℃シナリオは、SSP1-1.9。4℃シナリオは、SSP5-8.5を用いました。
※ SSP1-1.9:温暖化を「わずかなオーバーシュートの後」2100年に1850-1900年比で約1.5℃に抑制し、今世紀半ば頃にCO₂を正味ゼロにすることを想定している。
※ SSP5-8.5:追加的な気候政策を実施しない場合の高水準の参照シナリオ。
1850~1900年を基準とした世界平均気温の変化
出典:図、IPCC AR5 WGⅠ SPM Fig. SPM.7(a)
シナリオ分析結果
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区分
重要
リスク/機会
シチズンへの影響
時間軸
1.5℃
4℃
~2024
2025
~
2030
2031~
移行
リスク
政策・法規制
大
小
新たな法規制(カーボンプライス制度)の導入・強化によるコスト増加
●
●
技術及び市場
小
大
●
●
レピュテーション
中
小
気候変動への対応遅れなどによる評価・評判の下落、それによる株価・売上の低下
●
●
●
物理的
リスク
急性リスク
小
大
●
●
慢性リスク
中
大
●
●
小
中
●
●
機会
エネルギー・資源効率
大
小
●
●
中
中
省資源化、3R、廃棄物ゼロエミッション、水資源の保全によるコスト削減
●
●
●
中
小
代替素材での製品開発による差別化・競争力の向上
物質代替・軽量化によるライフサイクルでの脱炭素の実現
●
●
製品、サービス・市場
中
小
●
●
●
レジリエンス
中
中
●
●
●
中
大
●
●
●
※ リスク評価の結果、1.5℃シナリオ、4℃シナリオともに重要度が「小」と判断されたものは、掲載をしていません。
財務影響分析
シナリオ分析の結果を元に、シチズングループの財務影響に大きな影響を及ぼす可能性のある以下の2項目について財務影響を特定しました。
移行リスク
新たな法規制の導入・強化によるコスト増加
移行リスク
原材料等のコストの増加、供給不足・供給停止
炭素税導入によるScope1、2及びScope3への影響
炭素税の財務影響については、以下の計算基準に基づいて見積もりを行いました。
各シナリオにおけるIEAの炭素価格予測とシチズングループのCO₂排出量削減目標が達成された場合と達成できなかった場合の財務への影響を比較しました。炭素税のコストは、国によって金額が異なるため、現在のシチズングループのCO₂排出国(日本、タイ、中国、フィリピン、ベトナム)を基準に計算しています。
Scope1、2
炭素税が導入された際の生産に関わる2030年、2040年、2050年の事業インパクトを算出しました。
シチズングループは、2050年のカーボンニュートラル実現を目指しており、CO₂排出量削減ロードマップ(シチズングループ環境目標2030)を策定しています。これらを基準に、各年のCO₂排出量を設定し、財務影響額を算出しました。
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(百万円)
2030
2040
2050
CO₂排出量削減目標が達成できた場合
1,096
905
0
CO₂排出量削減目標が達成できなかった場合
1,398
2,310
2,877
Scope3
Scope3のカテゴリー1のCO₂排出量および材料購入費から、炭素税の影響がすべて購入価格に転嫁されたと仮定した場合の財務影響額を算出しました。
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(百万円)
2030
2040
2050
813
1,897
2,981
戦略(自社の対策・施策)
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、「シチズングループ環境ビジョン2050」を策定しました。シチズングループは、2050年までに工場・オフィスからのCO₂排出量を実質ゼロを目指しています。また、サプライチェーン全体における、気候変動に関するリスク把握に努めています。
当社グループは、低炭素経済への移行を機会と捉え、再生可能エネルギーや省エネルギー設備の導入に投資しており、環境配慮型製品の開発・生産を通じた製品競争力の向上にも取り組んでいます。
1.5℃シナリオにおいては、
炭素税の導入を含む規制強化によるコスト増や、原材料等の価格上昇リスクが想定されます。当社グループは、「シチズングループ環境目標2030」や「シチズングループ環境ビジョン2050」の達成に向け、脱炭素化の取り組みを推進するほか、GHG排出削減投資促進のためのインターナルカーボンプライス制度の導入を検討しています。
4℃シナリオにおいては、
原材料の安定的な確保のため、多角的な調達先の確保や適切な部材調達管理を推進していきます。また、気象災害を含むBCP対策や災害対策関連投資の促進などを行っています。
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区分
重要
リスク/機会
シチズンへの影響
対策
時間軸
1.5℃
4℃
~2024
2025
~
2030
2031~
移行リスク
政策・法規制
大
小
新たな法規制(カーボンプライス制度)の導入・強化によるコスト増加
脱炭素化取り組みの推進(シチズングループ環境目標2030の達成)
GHG排出削減投資促進のためのインターナルカーボンプライス制度の導入
●
●
技術及び市場
小
大
●
●
レピュテーション
中
小
気候変動への対応遅れなどによる評価・評判の下落、それによる株価・売上の低下
●
●
●
物理的リスク
急性リスク
小
大
●
●
慢性リスク
中
大
サプライチェーン全体のリスク評価
気象災害を含むBCP対策(生産拠点での災害対策、調達/物流系統のBCPプランの策定等)
災害対策関連投資の促進
●
●
小
中
サプライチェーン全体のリスク評価
気象災害を含むBCP対策(生産拠点での災害対策、調達/物流系統のBCPプランの策定等)
備蓄機能の強化
●
●
機会
エネルギー・資源効率
大
小
省エネルギー設備への転換、AI、IoT活用による電力使用の効率化
●
●
中
中
省資源化、3R、廃棄物ゼロエミッション、水資源の保全によるコスト削減
循環経済型ビジネス拡大による事業機会獲得
リサイクル資源の活用
●
●
●
中
小
代替素材での製品開発による差別化・競争力の向上
物質代替・軽量化によるライフサイクルでの脱炭素の実現
●
●
製品、サービス・市場
中
小
気候変動に適応した製品・サービスを提供(エコドライブ、照明用LED)
●
●
●
レジリエンス
中
中
サプライチェーン全体のリスク評価
気象災害を含むBCP対策(生産拠点での災害対策、調達/物流系統のBCPプランの策定等)
備蓄機能の強化
●
●
●
中
大
サプライチェーン全体のリスク評価
気象災害を含むBCP対策(生産拠点での災害対策、調達/物流系統のBCPプランの策定等)
備蓄機能の強化
●
●
●
リスク管理
気候関連のリスクおよび機会について、ISO14001に基づき、環境側面、順守すべき法令、外部環境・内部環境における課題、利害関係者のニーズや期待などから、1年に1回の頻度で、環境管理責任者と事務局において、リスクおよび機会を短期~長期の時間軸で洗い出しています。
気候関連リスクについては、取締役会による監督体制の下、当社におけるグループ重要リスクの一つとして当社グループの戦略に反映し、対応しています。
リスクおよび機会の解消に向けた具体的な対策は、取締役が参加する経営会議で決定し、その後に環境担当役員の管理下、関係部門で各対策に取り組んでいます。グループ横断的なテーマについては、効率的なPDCAサイクルを展開できるよう、確立されたISO14001の仕組みやそれに準拠する環境マネジメントシステムを活用しています。
指標と目標
シチズングループでは、気候変動に関する目標を以下の通り設定しています。
温室効果ガス排出量
指標
目標
スコープ1、2
50.4%削減(2018年度基準)
スコープ3
カテゴリ1+カテゴリ11の30%削減(2018年度基準)
またシチズングループでは、「気候関連の機会」に関する指標として省エネルギー化の推進によるコスト削減、「資本配分」に関する指標として省エネ・再エネの設備投資金額を設定しており、継続してモニタリングしていきます。
温室効果ガスの排出量削減
1.5℃シナリオの実現に向けて、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの削減を推進しています。その他、グループの各事業所での省エネ活動の実施やLED等省エネ機器や設備の導入、環境にも配慮した製造プロセス「サステナブルファクトリー」の確立に向けた設備投資についても準備を進めています。2022年1月にはシチズンファインデバイス本社・河口湖事業所の太陽光発電システムが稼働開始し、年間7.7トンの排出量削減を見込んでいます。なお、2023年4月に竣工したシチズンマシナリーの長野県・軽井沢工場を筆頭に、新設される全工場に太陽光発電システムを整備してエネルギー自給率を高める予定です。
また、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出量削減に向けて、シチズングループ全体でのスコープ3排出量の算定も実施しました。機会として、環境や社会問題の解決に貢献するエシカルな消費拡大を想定して、時計事業であればエコ・ドライブに代表されるような、新たな環境配慮型製品の創出に取り組んでいます。
スコープ1、2 GHG排出量
スコープ1
スコープ2(ロケーション基準)
スコープ1+スコープ2(ロケーション基準)
スコープ2(マーケット基準)
スコープ1+スコープ2(マーケット基準)
シチズングループの非エネルギー起源温室効果ガス排出量推移(CO₂換算)
2022年度のエネルギー起源二酸化炭素以外の温室効果ガス(三ふっ化窒素、六ふっ化硫黄、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、一酸化二窒素、メタン 、非エネルギー起源二酸化炭素)の直接排出量は1,390トン(CO₂換算)でした。これはスコープ1排出量全体の7%でした。海外も算定対象に加えたことと、算定方法の見直しにより、例年よりも大きな値となっています。
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単位:t-CO₂
2018年度
2019年度
2020年度
2021年度
2022年度
メタン
国内
131.0
158.2
146.6
129.7
98.3
海外
-
-
-
-
150.5
合計
131.0
158.2
146.6
129.7
248.9
一酸化二窒素
国内
44.9
42.4
30.7
41.9
35.6
海外
-
-
-
-
62.6
合計
44.9
42.4
30.7
41.9
98.2
ハイドロフルオロカーボン(HFC)
国内
87.9
21.6
84.0
283.9
633.8
海外
-
-
-
-
375.6
合計
87.9
21.6
84.0
283.9
1009.4
パーフルオロカーボン(PFC)
国内
0.0
0.0
0.0
43.2
30.3
海外
-
-
-
-
27.2
合計
0.0
0.0
0.0
43.2
57.5
六ふっ化いおう(SF6)
国内
28.9
32.9
10.1
36.8
27.0
海外
-
-
-
-
0.0
合計
28.9
32.9
10.1
36.8
27.0
三ふっ化窒素(NF3)
国内
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
海外
-
-
-
-
0.0
合計
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
非エネルギー起源二酸化炭素(CO₂)
国内
-
-
-
-
0.1
海外
-
-
-
-
0.7
合計
-
-
-
-
0.8
合計
国内
292.6
255.2
271.4
535.5
825.1
海外
-
-
-
-
616.6
合計
292.6
255.2
271.4
535.5
1441.7
※ 上記の温室効果ガス排出量は2021年度までは国内データのみの集計です。
※ 2022年度分から算定方法を見直したため、例年よりも国内排出量が多くなっています。
温室効果ガスのスコープ3排出量を算定
温室効果ガス排出量の削減においては、自社の製造段階だけでなく、間接的に排出するサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量(スコープ3)の把握が重要です。そこで、2022年度のシチズングループ全ての事業での温室効果ガス排出量の算定を行いました。算定の結果、間接的に排出するサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量は約165万1千トンとなりました。このうち「購入した製品・サービス」(カテゴリ1)は全体の57%と最も大きく、それに次いで「販売した製品の使用」(カテゴリ11)35%で、これら合わせると全体の約92%になりました。
当社では調達金額をもとにカテゴリ1の排出量を算定しています。2022年度は物価高騰による購入した製品(材料・消耗品)やサービス費用が増加したことで、カテゴリ1の排出量が増加しました。これにともないスコープ3全体の排出量も増加しました。次年度以降は対策を講じ排出量の削減に努めます。また、シチズングループ全事業の2022年度排出量データについては、年度内に外部検証機関による第三者検証を受審する予定です。
スコープ3排出量(2022年度)