「精度」と「審美性」のさらなる高みへ──。
シチズンが挑んだ機械式時計『Caliber 0200』開発の軌跡。

2021年8月、The CITIZENからリリースされた機械式時計『メカニカルモデル Caliber 0200』。片方向自動巻きや6時位置のスモールセコンドといった古典的な構成をあえて取り入れている一方で、フリースプラングてんぷの採用やクロノメーター規格を超える時間精度の実現など、最新の機構も搭載された同モデル。まさにシチズンの技術が結集された最高傑作とも言える『Caliber 0200』がどのような想いで開発され、そして実現に至ったのか──。シチズンとして約11年ぶりとなる機械式ムーブメントの企画・開発に挑んだメンバーたちに話を聞いた。

PROFILE

  • 土屋 建治

    土屋 建治

    2000年入社。時計事業本部 時計開発センター ME開発部 技術開発課所属。『Caliber 0200』の開発プロジェクトでは、品質のジャッジなど、主に製品化に向けたプロジェクト全体の管理を担当。

  • 中川 太郎

    中川 太郎

    2012年入社。時計事業本部 時計開発センター ME開発部 技術開発課所属。『Caliber 0200』の開発プロジェクトでは、プロトタイプの設計をはじめ、グループ会社であるラ・ジュー・ペレ社に駐在しながらのスイス現地と日本との技術連携などを担当。

  • 大橋 悠史

    大橋 悠史

    2012年入社。時計事業本部 時計開発センター ME開発部 技術開発課所属。『Caliber 0200』の開発プロジェクトでは、主に中川の設計および製品コンセプトに基づいた部品の加工開発を担当。

新型機械式ムーブメント
Caliber 0200』

※中川はスイス勤務のため、リモートで取材を実施しました。

土屋)

多くのメディアでもすでに取り上げていただいていますが、『Caliber 0200』の大きな特徴は、まさに腕時計としての「精度」と「審美性」にあります。これだけ審美性の高いムーブメントを生み出すことができた背景にあるのは、シチズンが2012年にラ・ジュー・ペレ社をグループ傘下に収めたことが一つ。機械式時計の本場とも言えるスイスで長年の実績を誇る同社との技術交流によって、より美しく、魅力的な製品の開発ができるようになったことは、当社にとっても大きな一歩になったのです。一方の精度においても、まさにシチズンがこれまでに培ってきた総合時計メーカーとしての技術が余すところなく発揮されていると言えるでしょう。平均日差で-3~+5秒という精度は、一般的なクロノメーター規格をも超える精度になっています。

中川)

“シチズンが11年ぶりとなる機械式ムーブメントをリリースする”として注目をいただいた『Caliber 0200』ですが、我々は「改めてこのタイミングで機械式時計を新開発しよう」と意気込んでいたわけではありません。社内では1918年の創業時から途絶えることなく、時代にあった理想の機械式時計を目指して研究・開発を続けています。

当社が着実に力を蓄えてきたこと、そしてラ・ジュー・ペレ社との協業で新たな技術交流が生まれたこと、さらには市場において機械式時計への注目が高まってきたことなど、様々な要因が重なったことこそが、『Caliber 0200』が今このタイミングでリリースされた理由と言えます。

Caliber 0200』の
開発を通じて、私たちが
実現したかったこと

中川)

時計が好きな方々に「これはいいね」と思っていただけることは大前提で、シチズンだからこそ生み出せるような機械式時計ならではの美しいムーブメントを生み出したいという想いが私にはありました。様々な時計を生み出し、これを安定した品質管理と量産技術で生産し続けているシチズン時計のインダストリアルなイメージはそのままに、まだこの世にない魅力的なムーブメントを創るという挑戦には、私自身とてもワクワクしたことを覚えています。加えて、『Caliber 0200』をシチズンの未来に繋がる時計にしたいという想いもありました。ただ単に“新たな時計を創りました”で終わるのではなく、我々が考える理想の時計を追求する取り組みを進め、より良い製品を生み出していく。未来に繋がる土台を創り上げることができたという意味では、大きな達成感がありましたね。

大橋)

加工開発に携わる一員として私が実現したかったのは、やはりムーブメントとしての審美性の高さに尽きます。その上で、まずは設計を担っている中川や土屋が納得できるものを絶対に創り上げようという気持ちで取り組んでいました。ちなみに、ラ・ジュー・ペレ社との技術交流という観点で、スイス現地のレシピを日本に持って来ればそのまま再現できると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそう簡単なものではありません。いかにラ・ジュー・ペレ社の持つ技術をシチズンの製造環境に適応させ、高い精度で実現していくのか。課題は決して少なくありませんでしたが、お客様がシチズンの新たな機械式時計に期待をしてくださっている中でチャレンジしていく環境は、私にとっては大きなやりがいでもありました。

土屋)

私が実現したかったことは、やはり時計としての「精度」です。時刻を正確に表示する機械として、このムーブメントがいかに高い精度を実現できるのかは、時計メーカーとして必ずチャレンジしなければならない部分。その点で、我々が一つのベンチマークにしていたのが“クロノメーター規格”でした。ちなみに、一般的なクロノメーター品はムーブメント単体で検査するものが多いのですが、当社ではムーブメントに文字板やケースを取り付け、お客様が手に取る状態に極力近づけて独自の精度検査を行っていることが特徴です。このこだわりは、シチズンがお客様の目線をいかに大事にしているかの表れでもあると自負しています。

コミュニケーションで
文化の違いを乗り越える

中川)

ラ・ジュー・ペレ社との協創関係においては、そもそもの文化や言語の違いという難しさは当然ありました。お互いの理想を繰り返し共有し、最適解を模索しながら、『Caliber 0200』という一つの形が出来上がったことは、とても良かったと思っています。

大橋)

私自身、ラ・ジュー・ペレ社に赴いて装飾技術や加工技術を学んできました。現地で学んだことをうまく生かして、「歯車をいかにキレイに見えるようにできるか」「ムーブメント全体をその動きの美しさに見合う品質にできるか」といった部分で、細かい条件出しをしていく作業はとても大変でしたが、トライ&エラーを繰り返していった結果が、高い評価をいただいている製品に繋がったことは私自身の誇りです。もちろん、それができたのは、シチズンとしての意思表示をしっかりと行い、理解してもらうという作業を、諦めることなく土屋や中川が担ってきてくれたからこそだと思っています。

より上を目指して、
私たちは開発を続けていく

土屋)

今後シチズンとしては、『Caliber 0200』をはじめとする機械式時計においても、お客様が身に着けた時の充足感をより高めていけるような開発を進めていきたいと考えています。
そういった意味で私が一緒に働きたいと思う人財は、自身の好きなことと世間の求めていることのバランス感覚に優れている方ですね。私自身、一人の“時計好き”ではありますが、シチズンで開発に携わる以上、自分の好きなことを追求するだけではもちろんダメです。好きという感情も大切にしながら、ニーズへのアンテナを常に張り、使っていただく方の満足度をより高めるような仕事ができる。
そんな方であれば、きっと当社でも活躍できると考えています。

大橋)

時計創りの仕事と聞くと、機械系の知識がないといけないのかなと思っている方も多くいらっしゃるかもしれませんが、実は開発ではそれに限らない様々な知識を活かすことが可能です。例えば、化学系の技術や知識なども大きな武器になる世界。そういった意味では、「時計創りに携わってみたい」という想いさえあれば、今勉強していることがまったく異なる分野でも、心配する必要はないかと思います。ちなみに私自身、入社時点で「すごく時計が好き」「絶対に時計じゃなきイヤだ」と思っていたわけではありませんでした。シチズンは、そんな私でも入社してから楽しさややりがいを数多く見つけられた環境ですので、まずはぜひチャレンジしてほしいと思っています。

中川)

100点満点の完璧な時計というものはこの世には無く、それこそ『Caliber 0200』においても、私たちはまだまだ個性を伸ばすことができると考えています。シチズンメンバーの根底には、よりよいもの、より喜んでいただけるものを、という気持ちが常にあり、私もその気持ちで開発に取り組んでいます。その想いに共感していただける方に、新たな仲間になっていただけたら非常に嬉しいです。
また、私はより良い製品を創るために、色々な世界を知っておくことが大切だと思っています。時計に限らず、建築物、自動車、洋服など、世の中に溢れている様々なものを見た時に、ただ眺めるだけではなく、「どういう風に創っているのか」「どういうところに面白さや魅力があるのか」など、考えてみることを意識しています。そういった様々な経験を経た先に、「やはり時計作りに携わってみたい」と思った方と、ぜひ一緒に仕事ができたらと思っています。