S・M
デザイン部
2008年入社
デザイン課グローバルグループ配属。2022年からデザイン部ブランドデザイングループでブランドに関わるクリエイティブディレクションに携わっている。50周年記念モデルでは「光が導く新たな形」をテーマにしたコンペが行われ、提案した二重スリット実験をモチーフにしたデザインが採択された。
Cross Talk VOL.2
光を電気に変換して駆動する光発電腕時計「エコ・ドライブ」。2026年は時計界に革命をもたらしたこの技術の誕生50周年に当たる。その50周年を記念して開発されたのが「Eco-Drive PHOTON」だ。フル充電で365日駆動する新型ムーブメントを採用し、2枚のスリット金属板と構造色フィルムを重ねた文字板のデザインは、見る角度や光の当たり方によって色彩や表情が変化し、「光」そのものが視覚的に表現されている。
このプロジェクトの登場人物
S・M
デザイン部
2008年入社
デザイン課グローバルグループ配属。2022年からデザイン部ブランドデザイングループでブランドに関わるクリエイティブディレクションに携わっている。50周年記念モデルでは「光が導く新たな形」をテーマにしたコンペが行われ、提案した二重スリット実験をモチーフにしたデザインが採択された。
M・C
商品開発部 第一開発課
2012年入社
デザイナーの描いたコンセプト・デザインを設計・試作・量産展開することが商品開発部の役割。本プロジェクトではデザイナーと二人三脚で「光そのもの」を形にしていく重責を担うだけでなく、構造色フィルムの採用という大きな変更を伴うアイデアを申し出た。
R・T
時計開発部 設計課
2019年入社
2019年に入社して以来一貫して設計課でムーブメントの機構設計に従事。2021年からは機構設計に加え、開発主担当を務め汎用ソーラームーブメント長持続時間化の開発に取り組んでいる。50周年モデルでは自ら開発に携わった新型Cal.E036が採用された。
01
1976年、世界的なエネルギー危機という社会背景を受けて、シチズンは世界初のアナログ式光発電時計の開発に成功した。この「エコ・ドライブ」の成功により「光で時計を動かす」という思想はシチズンの中核技術として定着。以来、エコ・ドライブは室内光対応、長時間駆動、小型ムーブメント化、多機能化、電波時計化、GPS衛星電波対応など時計業界に数多くの“革命”をもたらしながら進化・成熟。エコ・ドライブはシチズンの技術力を示す象徴としても世界に広く認知されている。
02
2026年はエコ・ドライブ誕生50周年に当たる。その象徴モデルとされるのが「Eco-Drive PHOTON」だ。開発に際しては「光が導く新たな形」をテーマにしたコンペが行われ、革新的なデザインが採択された。「光で動き続ける時計」というエコ・ドライブの思想を体現し、エネルギー問題を背景に開発・進化・成熟してきた光発電技術の歴史を、記念モデルのストーリーとして表現している。
03
「Eco-Drive PHOTON」は量子力学の「二重スリット実験」をモチーフにした2枚の金属板にスリットを入れて重ねた多層文字板を採用し、見る角度によって色や表情が変化するなど「光発電」を見える化する工夫が凝らされている。またムーブメントにはフル充電で約365日駆動する長持続時間化と大型針にも対応できる駆動性能向上を実現させた新型エコ・ドライブムーブメント「Cal.E036」を採用。「Eco-Drive PHOTON」の開発には「光そのもの」を表現する革新的なデザインとそれを形にする確かな技術力が凝縮されている。
R・T 本プロジェクトは2024年の秋に、商品企画が50周年モデルの制作を発表したことが起点です。デザインコンペが行われS・Mさんの企画・デザインが採択されましたが、どのような意図で「Eco-Drive PHOTON」はデザインされたのでしょうか?
S・M 今回のテーマである「光」は、シチズン独自の光発電技術エコ・ドライブそのものです。多くの発電はタービンを回すことで電気を生み出しますが、光発電は光電効果を利用して光をそのままエネルギーに変換します。今回はこういった光の物理的な側面をモチーフにすることで、知性的なコンセプトから生まれる直観的な美しさを表現したいと考えました。特徴的な多層構造の文字板は、光が粒子であると同時に波の性質も併せ持つことを示した二重スリット実験から着想を得ました。
R・T これまでのエコ・ドライブに採用されていた光が透過する文字板ではなく、金属素材の文字板にスリットを設け、一目で光が通り抜けることが伝わる革新的なデザインですが、これを実現するのは大変だったと思います。実現にあたって特に難しかったのはどのような点でしょうか。
M・C 外装のほぼすべてが新構造・新要素となり、最初にスケッチを見たときは開発手番に不安を感じました。エコ・ドライブの文字板は、光を通すために通常は薄いポリカーボネート材を採用しています。しかし「Eco-Drive PHOTON」は金属板を2枚組み合わせたデザインとなっています。金属板は光を透過しませんから、スリットから入る光だけで発電しなければなりません。受光率を考慮すると立体感が出しにくいため、発電に必要な最低限の受光量を満たすよう、ミクロン単位でスリット幅を調整していきました。特に、複数層にわたるスリットの位置関係や透過率の最適化、強度確保が大きな課題でした。多層構造を実現するため極めて薄い金属板を新たに調達する必要もありました。また、私たちはデザイナーの描いたデザインをただ形にするのではなく、その後の量産組み立てや採算性を視野に入れながら仕様を決定しなければなりません。その意味で「Eco-Drive PHOTON」の開発は乗り越えるべき課題が多く、難易度の高いチャレンジングなものになりました。
S・M 受光率が低くなる金属素材をデザインに採用できたのは、50周年モデルに採用されている新型ムーブメント「Cal. E036」のおかげでもあります。その開発を主導したのがR・Tさんです。
R・T エコ・ドライブ50周年記念モデルに、自身が開発に携わったCal. E036が採用されると聞いた際は、大変光栄に感じると同時に、それにふさわしい品質を提供しなければならないという責任の重さも強く感じました。「Cal. E036」は回路システムを全面的に刷新し、薄型でありながら高い性能を備えたムーブメントです。一度充電すれば光が当たらない環境下でも約1年間動作する長持続時間化を実現しました。さらに、駆動性能向上により従来よりも重い針に対応し、文字板の透過率改善によって個性的な文字板デザインの採用も可能となるなど、デザインの自由度を大きく広げています。「Eco-Drive PHOTON」は、こうした性能を余すことなく活用してくれた象徴的なモデルだと思います。また、「Cal. E036」は次世代のエコ・ドライブムーブメントとして多くの製品に展開されることを前提としているため、開発にあたっては量産において安定した品質を確保することが求められていました。そのため、ばらつきが生じても品質不良に至らないロバスト設計とすることや、共通部品の活用による量産組み立て負荷の低減に苦労しました。
M・C 開発では様々な課題を解決しながらダミー(完成見本)をつくっていきます。そこで評価を行い問題点を洗い出すのですが、R・Tさんには一回転目のダミー評価でも協力いただきました。
R・T 立体的にスリットが重なり合う多層構造の文字板を初採用したため、衝撃が加わった際のムーブメントへの影響が読みにくい点が課題でした。そのため、シミュレーションによる事前検証を実施し、開発初期段階で問題がないことを確認しました。
M・C 本プロジェクトは商品企画、デザイン、商品開発の3部門から計4名が参加し、チームを構成しましたが、R・Tさんもまた「Eco-Drive PHOTON」を完成に導いた重要なメンバーの一人です。
S・M 試作の2回転目では、シチズンらしさを象徴する印象的な出来事がありました。M・Cさんから構造色フィルムを採用する提案がされたのです。構造色フィルムを配置することにより、透過率を損なうことなく光の干渉による色彩表現が実現できます。その結果、光発電という機能を直感的に認識できる造形と、実用時計としての性能が両立しました。これは光の性質を体感できる新しいユーザー体験を創出し、エコ・ドライブ製品の価値を再定義するとても重要な提案でした。私もアイデアとしては持っていましたが、開発途中の大幅な変更は技術的にもスケジュール的にも大きな困難が伴います。まさかエンジニアの方から申し出があるとは思ってもいませんでした。
M・C 私も提案はしたものの、採用されるとは思っていませんでした。「よし、やってみよう」と言われたときはスケジュールを思い浮かべて少し眩暈がしました。新たにフィルムを加えることで設計はすべて見直しです。今回は文字板の構造だけではなく、新型バンドにも多くの課題がありました。デザイナーの要望だとなかなか効率的な量産が難しい。一方、量産性を考慮すると外観がデザイナーの要望から離れてしまい、バランスを取りながら落としどころを探る検討が何回も続いていました。そうした中での大きな変更ですから、スケジュールはますます厳しくなりました。50周年記念モデルなのに51周年になっては意味がありませんから、開発は時間との闘いでもありました。
R・T 50周年を象徴するモデルだからこそできたチャレンジだったのかもしれませんね。
M・C そう思います。「Eco-Drive PHOTON」はエコ・ドライブの歴史を総括したものであり、光発電をリードしてきたシチズンの技術の集大成でもあります。だからこそ妥協はしたくありませんでした。
S・M 本当に自分事として商品のことを考えてくれていたからできた提案だと思います。新型ムーブメントという技術があったからこそ革新的なデザインが生まれ、エンジニアの妥協なき姿勢がさらに製品に磨きをかけた。「Eco-Drive PHOTON」はそのどれか一つが欠けても実現しなかったと思います。
※業務内容・所属部署は取材当時のものです。
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