CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2023年受賞

三登 浩成さん

自宅でも資料の精査に余念がない

30万人を超える人々に続ける「平和の種まき」

三登さんのガイドで特に大きな役割を果たしているのが、毎日自転車で運びベンチや階段に並べているファイルブックです。原爆ドームを訪れた人たちが自由に見られるこのファイルには、多くの外国人が高い関心を示し、「ここには知りたかった情報が全部そろっている」とよく言われるそうです。

そうしたなかには1~2時間かけて読みふける人もいて、ある中国人留学生が「中国語に翻訳したい」と言ってくれたことから、当初は日英の2カ国語だったファイルブックに中国語版が加わりました。その後同じような申し出があり、現在では日本語、英語、フランス語、スペイン語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ドイツ語、ロシア語と、8カ国語が用意されています。

これまで案内した人は30万人を超え、そのうち約9万5000人が180もの国から訪れた外国人です。三登さんは、そうした人たちへのガイドを「平和の種まき」と話します。これは、沼田鈴子さんの手記にある言葉で、そのなかで沼田さんは、核廃絶のためには原爆の実相を伝えることが大切で、「多くの方々が手をとりあって一粒ずつの種まきの輪をひろげましょう」と語りかけており、三登さんはそれを実践しているのです。

(左)ファイルの前には外国人の姿が一日中絶えない
(右上)来訪者の協力でファイルは8カ国語になった
(右下)本当に知りたかった情報があるという声が多い

原爆ドーム前で伝えることに大きな意味

三登さんは自らの地道な活動について、「微力は決して無力ではないのです。どんな些細な種もまかなければ芽は出ません。だからこそ、自分はこの小さな平和の種をまき続けるのです」と想いを込めます。こうして地道に原爆の実相を伝えようとする三登さんとの出会いのなかからは、その想いを世界に伝えようとアメリカ人女性が三登さんと母・登美枝さんを描いたドキュメンタリー映画「That Day(あの日)」も生まれています。

そんな三登さんの周りには自然と仲間が集まり、ボランティアグループFIG(Free and Informative Guide)も誕生しています。仲間のなかには苦手だった英語でのガイドにチャレンジし、伝えることに喜びを覚え、アメリカ人の学生団体に英語で講演を行っている人もいます。

また三登さんには、海外からの講演依頼もあるそうですが、被爆後の姿がほぼそのまま残されている原爆ドームの前でガイドを行うことにこだわっています。ここをボランティアガイドの定位置にした理由は公園内でいちばん人通りが多かったこともありますが、「何といっても、爆心地に近くガイドで紹介する碑や遺跡、施設のすべてが一望にできる“臨場感”が重要なんです」と話し、「この特別な場所である原爆ドームに海外からわざわざ足を運んでくれる人たちに、原爆の実相を直接伝えることに意味があり、ここで『平和の種まき』を続けていきたいのです」と熱く語ります。

(左)平和記念資料館でスライドを使い英語で講義するガイド仲間の山岡美知子さん
(右)三登さんは原爆ドームの前でガイドすることにこだわる

『過去を振り返ることは、将来に対する責任を負うこと』

三登さんもガイド仲間も、「平和の種まき」になるという信念で原爆の実相を伝え続けている

もちろん、三登さんの話を聞いて初めて原爆の実相に触れるのは外国人だけではありません。卒業旅行で広島を訪れた学生のなかには、「自分の国で起こったことなのに、22年間知る機会がなかったことが悔しい」と話す若者もいると言います。「ですから、いちばんいいのは自分のようなガイドがいなくても、皆に原爆の実相を知る機会が与えられることなのです。でも、実際にはそうなっていません。だから、1日も休まず続けていかなければという気持ちになるのです」。

そんな三登さんの元には、ガイドをした世界中の人からお礼のメールが届きます。原爆の実相を聞き、そこに何を感じ、これからどんな行動をとるかは人それぞれですが、その一つ一つの出会いが平和の種まきになっているのです。

平和記念資料館には、1981年に広島を訪れたローマ法王ヨハネ・パウロ二世が核兵器廃絶を訴えた言葉が刻まれた碑があります。三登さんはガイドを行う際、その一節「過去を振り返ることは、将来に対する責任を負うこと」を紹介しています。そこには、「『真実』を伝えることはできませんが、『事実』を積み重ねることで『真実』に近づくことはできると思っています。だからこそ、同じ過ちを繰り返さないためにも事実を伝えることが大事なのです」という信念があり、三登さんはその熱い想いでこれからもこの場所に立ち続けると言います。

ガイドをした人たちから届くお礼のメール
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