CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2022年度受賞

きつおん親子カフェ

無戸籍者の手となり足となりともに生きる伴走者であり続けたい

吃音のある子どもたちに
安心して自分らしく話せる場を

吃音当事者の手記をきっかけに活動をスタート

「ここ楽しい。僕また来るね」

自分の子どもに「吃音があるのは自分ひとりじゃない」と思える場をつくろうと、同じ悩みを持つ親子の交流会を始めた戸田祐子さんは、小さな男の子のつぶやいた言葉に心からうれしくなった。

広島県広島市に住む戸田さんが、次男の吃音に気づいたのは3歳のとき。吃音は100人に1人と言われているものの、周りに吃音の子どもはいなかった。

吃音は、言いたいことが頭に浮かんでいるのに、その言葉がスムーズに出せない言語障害で発達障害の一つに分類されている。「わわわたし・・」(連発)、「わーーたし」(伸発)、「・・・わたし」(難発)の症状があり、2~5歳ごろに始まることが多い。約8割は成長とともに症状はなくなるが、2割は症状が残るという。戸田さんの次男は小学生になってからも症状が続いていた。

親として吃音について学ぶ中、目にしたのが、「子どものころに、吃音のある子どもたちと交流の場がほしかった」と綴られた、吃音当事者の手記だった。「そうか、吃音があるのは自分ひとりじゃないと子どもたちが思え、同じ悩みを持つ親同士がつながれる場をつくれたらどんなにいいだろう」。

早速その第一歩として、2011年5月、戸田さんは次男の通っていた「ことばの教室」で知り合った母親たちに声をかけ、5組の親子とともに料理会を開いた。

これが好評で、「楽しい!またやりたい」と目を輝かせる子どもたちの笑顔に手応えを感じた戸田さんは参加してくれた親たちと有志の団体「きつおん親子カフェ」を立ち上げ、その年の7月に活動をスタートさせたのである。不安と期待の入り混じった手探りの船出だったが、「別に完璧でなくてもいい。子どもたちが自分の話し方で自分の思いを伝えられる場を目指していこう」。そのときの想いを戸田さんはそう振り返る。

交流会に参加した子どもたちには、「どもってもいいし、吃音に悩んでもいいんだ」と感じてもらえたらと戸田さんは話す

回を重ねるごと笑顔があふれる交流会に

親子で楽しんだ料理会が「きつおん親子カフェ」の誕生につながった

こうして始まった「きつおん親子カフェ」は、保護者や「ことばの教室」の先生、言語聴覚士などの運営メンバーを中心に、イベントごとに手伝ってくれるスタッフも加えて講演会や交流会を企画している。特に年3回開催することにした交流会は一日かけて行うもので、午前中は料理会やスポーツなど親子が一緒に楽しむレクリエーションを行う。そして昼食をはさんだ午後は、小学生、中高生、保護者など各年代に分かれ、吃音について学んだり、日ごろの悩みや疑問を話し合ったりして、互いに想いを分かち合える場となっている。

普段は周りに吃音の子がいない子どもたちにとって、吃音があるのは自分だけじゃないと思えるこの交流会は、回を重ねるごとに戸田さんたちが願った、安心感に満ちた場所となっていった。さらに保護者にとっても、子どもたちに活き活きとした表情があふれ、親同士も吃音の悩みを話し合える交流会は、心が救われる場所になっていた。

戸田さんの次男も、「僕は交流会だと、どもらないんだ」と言っていたそうで、「実際はどもっていたのですが、それを本人が全然気にすることなく伸び伸び話せていたのだと思うと、私もうれしくなりました」と話す。そして、そうした喜びがほかの親子にもたくさん生まれていることが、次へのエネルギーになった。

(左)他の子の話を聞き自分の思いを話すことで「吃音があるのは自分ひとりじゃない」と実感する
(右)「きつおん親子カフェ」は保護者や「ことばの教室」の先生、言語聴覚士などで運営されている

「また来たい」という声にスタッフも感動

交流会は2023年6月まで合計33回開催され、平均の参加者数は約70名で、最高100名参加したこともあり、これまで累計2,500名以上が参加している。

75名の親子が参加した6月の交流会は、初参加の子どもたちも多いことから、まずは打ち解けるために、「好きな食べ物」などお互いのことが知り合える「自己紹介ビンゴ」でスタート。続くレクリエーションでは、ドッチボールとフリスビーを合わせた「ドッチビー」に親子で汗を流した。

昼食をはさんだ午後は、年代ごとに分かれてグループ活動を実施。子どもグループで行われたクリームソーダづくりでは、自分の心の中をさまざまな色のクリームソーダで描く時間も設けられ、吃音のある仲間と会えたうれしさや学校での不安など、それぞれの想いを絵で表現した。

また中高生グループには大学生や社会人も加わり、先輩から英検の面接での体験談や就職活動についての話を聞いたり、逆に高校生から人前で話すときのアドバイスを求めたりと、悩みの相談の場にもなって熱心に聞き入る姿が見られた。

グループ活動は、保護者たちも日ごろの悩みが話せる貴重な機会となっている。そして、親子が離れて活動をすることで、家に帰ってから「今日はこんなことしたよ」といった吃音の話題が、家庭で増えることにつながればと戸田さんは話す。

こうして内容の濃い時間を過ごした参加者は、最後に小さな子どもから大人まで全員が輪になり一言ずつ今日の感想を述べ、「普段聞けないことが聞けた」「また来てみんなに会いたい」といった、次につながる声がたくさん聞かれた。

今年6月の交流会では、ラーメンをモチーフにした準備体操や「ドッチビー」(左上、左下)、年代別のグループ活動(右上、右下)などで、全員が充実した時間を過ごした
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