CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2019年度受賞

尻別川の未来を考える オビラメの会

イトウが遡上できるよう落差工に設けられた魚道

魚道の設置に加え、24時間見守り活動もスタート

当時の草島会長が、「生涯忘れることのできない日。箱入り娘を嫁に出す親の気持ちはかくありなん」と語った稚魚放流を成し遂げたオビラメの会。その最初の難関をクリアしたことで、生まれた稚魚が育って親になれば、「尻別イトウ」の遺伝子を確実に継承できる道が開けた。

さらにオビラメの会では、成長した稚魚たちが放流された川に回帰できるよう、川に数カ所ある落差工(ミニサイズのダム)に魚が通れる「魚道」を設置してもらうため、行政への働きかけにも注力した。その結果、自治体や地域住民など多くの協力を得て、倶登山川の落差工すべてに魚道が設けられたのである。

2010年、別の支流で約20年ぶりに天然の尻別イトウによる自然産卵が確認されると、繁殖期のイトウ保護のため、翌年からは24時間体制の「見まもり隊」活動をスタート。毎年4月中旬からの約1カ月間、河川敷に設置したプレハブ小屋「オビラメハウス」に交替で泊まり込み、釣り人にイトウ釣りの自粛をお願いするなど活動を継続している。この地道な活動は、北海道や地元?知安町など多くの支持を得て、2020年まで自然繁殖の見守りに成功している。

大きく変化した尻別川の環境(制作協力・柳井清治氏)

世界でも例がない、絶滅危惧種・イトウの再導入!

2012年、見まもり隊活動中のメンバーからうれしいニュースが飛び込んできた。04年と05年に放流した人口ふ化の稚魚が、親魚となって倶登山川に回帰し、産卵行動をしているのを確認したというのだ。

朗報は一斉に会のメンバーに伝えられ、全員が喜びに包まれた。絶滅危惧種であるイトウの再導入は、世界でも例がない快挙であった。そして2019年、ついに、放流魚の自然繁殖によって生まれた第2世代の尻別イトウたちが成長して戻り、自然繁殖に参加しているのが初確認されたのである。それは、メンバーが「言葉には言い表せない」という感動の瞬間だった。

悲願の人工授精に成功してから16年、オビラメの会の挑戦は着実に前進を続けてきたのである。

しかし、そうした喜びの一方で、メンバーはさらに先を見つめている。それは、「尻別イトウが、いまだ絶滅の危機を脱し切れていない」ことを、常に皆が意識しているからだという。

見守り隊の活動は、地域の生態系の保全は地域ぐるみでしか成しえないことを教えてくれた。だからこそ、イトウを二度と絶滅の縁に追い詰めないという意識を、地域全体で共有できるようにしなければならないのである。

尻別川に多様な命の賑わいが戻る日を目指して

尻別イトウの生態を教える小学校での出前授業

2000年の「オビラメ復活30年計画」の始動から20年。9回にわたり合計約7800匹の稚魚を放流し、人の手を離れての自然繁殖も成し遂げ、「少しずつ成果が出て自信が持てた」と話す吉岡現会長と川村事務局長。活動の啓発のため、地元小学校で尻別イトウの生態を教える出前授業や地域での説明会などにも取り組んでいる。

オビラメの会では、尻別川のイトウが絶滅の危機から脱したと言える日を目指し「イトウのおかげで良いことが増えたと流域の人たちに言ってもらえるようになれば、別の流域で再導入を図る際にも歓迎してもらえ、活動はもっとうまくいくと思います。そうして協力してくれる方々を増やしていくのが自分たちの役割・使命だと思って、これからも努力していきます」と今後を見据える。

30年計画の残り10年、会のメンバーは、尻別川のどの流域でも再導入が達成され、イトウから「もう、手を貸してくれなくても大丈夫だよ」と言われることを夢見ている。そして、イトウだけでなく、尻別川に多様な生き物の賑わいを取り戻して最終ミッションの「解散」を果たすまで、オビラメの会の挑戦はこれからも続く。

2015年新設の有島ポンドでの採卵作業(撮影・小山内涼音氏)
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