CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2018年度受賞

NPO法人 全国不登校新聞社

取材を受けないことで知られる樹木希林さんも、当事者である子ども若者編集部の取材は快諾

「自分が悩んでいることを、自分の言葉で聞いてください」

不登校新聞で最も反響の多いのが、当事者である「子ども若者編集部」が憧れの人を取材するインタビュー記事だ。取材を受ける側も、不登校や引きこもりの当事者・経験者に対し親身に答えてくれ、それが読者の心にも響くのだろう。

第三者的な視点の記者が「こういう問題に対してどう思いますか」と聞くのと、悩みの渦中にいる当事者が「自分はどうすればいいでしょう」と聞くのでは、相手の向き合い方もおのずと異なってくる。このため、予定の時間をオーバーして親身に取材に応じてくれることも少なくない。

「映画監督の押井守さんを取材したときも、不登校だった女性がどう生きればいいのか悩んでいる気持ちを素直にぶつけました。それに対し、監督も真剣に向き合って答えてくれ、取材を終えると彼女は『今日は本当に生きている気がしました』と実感をこめて言ったのです。それはまさに、自分がかつて感じた想いと一緒でした」と石井さんは話す。

編集長となった今も、「子ども若者編集部」のメンバーには、「自分が悩んでいることを自分の言葉で聞いてください。それが取材になりますから」と言って送り出す。

日本を代表する演出家の一人、 宮本亞門さんへのインタビュー

廃刊の危機に、全国の読者から存続を願う声

2015年、内閣府の資料に基づき、18歳以下の自殺が夏休み明けの9月1日に突出して多いことを報道したのも不登校新聞だ。このニュースは各メディアが後を追い、長期休暇後の子どもたちに注意が必要なことを社会が認識するきっかけのひとつにもなった。

しかし、そんな不登校新聞にも、20年を超える歴史の中には廃刊の危機があった。最大で6,000部あった発行部数が、活字離れの影響などもあり2012年には820部まで減少。「WEB版にしようか」「雑誌にしてはどうか」と、打開策を模索する日々が続いたが、ついに休刊予告を発表するまでになったのである。

ところが、それを知った読者からは「当事者の生の声、生の情報をもっと聞きたい」という声が続々と寄せられ、自分たちの新聞がいかに多くの人に求められているのかを再認識。以前から、「子どもの悩みで死ぬことまで考えたのが、不登校新聞のおかげで救われました」といった母親の声も寄せられており、奥地さんも「この新聞は絶対に廃刊にしてはいけない」という想いを新たにして奮起したのである。

一人ひとりの悩みに寄り添い、生きるヒントを届け続ける

心温まる記事原稿には思わず表情が緩む

廃刊の危機に直面した不登校新聞は、月2回の発行を全国で待っている読者のため、全員が一丸となってアイデアを出し、WEB版の創刊や紙面改定など大胆な施策を実施。さらに新聞やテレビなど他のメディアが取り上げてくれたこともあり、部数を増加に向かわせることができたのである。現在は、休刊予告を出したときの4倍の3,500部まで回復している。

創刊から21年。不登校の当事者に接するとき、奥地さんがいつも大切にしてきたことがある。それは、まず自分の気持ちを白紙にして、相手の話を聞くこと。子どもが不登校になったり、いじめを受けたりすると、親はどうしても自分の気持ちが前面に出て、子どもの立場で考えることができなくなりがちだ。そうした親の話を聞くときも、まず相手の気持ちをすべて受け止めるのが大切で、そうすれば相手も自分の話に耳を傾けてくれ、子どもの本当の気持ちに気づいてくれるそうだ。

これまで延べ1000人を超える不登校経験者が取材や執筆に関わり、発信する側も受け取る側もさまざまな生き方のヒントを得てきた不登校新聞。これからも、そうした一人ひとりの悩みに寄り添い、当事者視点の記事を届け続けていく。

編集会議では、より良い紙面づくりに向け、スタッフや「子ども若者編集部」のメンバーが活発な意見を交わす
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