CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2018年度受賞

NPO法人 全国不登校新聞社

伝えたい。学びの場は
学校だけじゃないことを

衝撃的な事件を受け、日本で唯一の「不登校新聞」を創刊

自身が不登校の子どもを持つ経験をしていた理事の奥地圭子さんは、「登校拒否を考える会」という親の会やフリースクール「東京シューレ」を開設するなど、1980年代から長くこの問題に取り組んできた。

また、学びの場は学校だけではないことを訴えようと、フリースクールの生徒と一緒に新聞の取材を受けることもあったが、記者から「早く学校に行けるようになるといいね」といった言葉をかけられ、フリースクールで学ぶことを理解されず、傷つく子どもたちも多く、「自分たちで発信するメディアを持ちたい」と思うようになった。

そうした中、1997年8月31日、夏休み明けの登校を苦にしたと思われる中学生が焼身自殺。さらに同じ日、別の中学校では、学校が燃えれば行かなくてすむと思った生徒たちによる放火事件が発生した。相次ぐ衝撃的な出来事に、奥地さんは改めて「学校以外にもたくさんの生き方があることを伝えたい」という思いを強くした。

こうして、1998年5月1日、奥地さんが中心となり、これまで広げてきた全国ネットワークの協力を得て、日本で唯一の不登校専門紙「不登校新聞」が創刊されたのである。

創刊の主旨を伝えた創刊準備号(右)と、記念すべき創刊号

当事者視点の記事に大きな反響。たちまち6,000部に!

子ども若者編集部員による、難病のコラムニスト・伊是名夏子さんへのインタビュー

不登校新聞が創刊時に掲げた編集方針は、「当事者視点」の新聞であること。不登校に関しては専門家や大手メディアによる発信も行われていたが、奥地さんたちはそこに視点の違いを感じ、何よりも当事者から学ぶことが大事と考えたのである。

そうした想いは不登校に苦しむ読者にも届き、創刊後の反響は大きくその年のうちに発行部数6,000部を達成。奥地さんは「親の会の皆さんが手を真っ黒にして発送作業を手伝ってくれました」と当時を振り返る。月に2回の発行で、紙面は不登校経験者へのインタビューやイベントの告知、親の会の情報など8ページで構成。不登校経験者や不登校の子を持つ親の体験談なども紹介され、多くの読者にとって心の拠り所となっていったのである。

さらに、「子どもの気持ちは子どもに学ぶ」という考えのもと、不登校や引きこもりの当事者・経験者が企画や取材にボランティアで参加する「子ども若者編集部」も設置。当初のメンバーは10人ほどだったが、現在では北海道から九州まで10~30代の約130名が登録し、企画・取材・編集に携わっている。

糸井さんへの取材左から三人目が石井

憧れの人への取材で気持ちが救われ、生きていることを実感

2006年から編集長を務める石井志昂(しこう)さんも、不登校経験者の一人。中学校2年生のとき、いじめや体罰、理不尽な校則などさまざまな精神的負担が重なり、学校に行けなくなったと話す。その後、奥地さんらが開設したフリースクールに通う中で、最初は取材される立場で不登校新聞と関わり、その後「子ども若者編集部」に参加して企画や取材に携わるようになった。

石井さんが、本格的に不登校新聞の編集に関わりたいと思うようになったきっかけは、「子ども若者編集部員」として行った、憧れのコピーライター、糸井重里さんへの取材だった。「この取材で、自分の話をきちんと聞いてもらい、糸井さんにもたくさん話を聞かせていただいて、最後に『今日は楽しかった。ありがとう』と言って握手してもらいました。そのとき、本当に救われた気持ちになって、生きている実感を持つことができたのです」。

その経験を原点に、自分が感じた想いや生きている実感を全国の読者に伝えたいと思った石井さんは、仕事として不登校新聞の編集に取り組もうと心に決めたという。19歳のときだった。

不登校や引きこもりの当事者である「子ども若者編集部」の編集会議
不登校や引きこもりの当事者が多く関わり 不登校新聞は作られていく
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