CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2017年度受賞

角居 勝彦さん

感謝の心で切り開く引退した馬たちの新たな道

感謝の心で切り開く
引退した馬たちの新たな道

北海道の牧場で知ったサラブレッドが背負う運命

骨折した仔馬の足を見つめ、「この子どうなるんですか?」と訊ねる角居さんに返ってきたのは、「無理だな…」という短い返事だった。それは殺処分を意味していた。

石川県の高校を卒業後、サラブレッドを生産・育成する北海道の牧場に就職した角居さんは、速く走ることだけを求められる「競走馬」の存在を知り、同時に衝撃的な現実を目の当たりにした。

「骨折しただけで運命が振り分けられてしまう瞬間に立ち会うなかで、自分もこの仕事を続けるのかどうか振り分けられているような気がしました。そして、そんな運命を背負った競走馬を支えながら生きていくなら、逆にやりがいのある仕事だと思うようになりました」

さらに、角居さんの気持ちを競馬に向けさせたのが、国際競走の「ジャパンカップ」だった。当時日本では、気が荒く引いて歩くのも大変な馬が強いと思われていた。しかし「ジャパンカップ」にやってきた外国馬は、パドックで女性に引かれてゆったりと歩き、本番では圧勝してしまう。角居さんは、世界で戦う馬はどれほど違うものなのか、もっと競馬に近いところに行きたいと思うようになった。

馬と共に歩む競馬の世界に飛び込み、調教師の頂点を目指す

より競走馬に近い競馬の世界で働きたいと思った角居さんは、牧場をやめて日本中央競馬会(JRA)の競馬学校に入学。頂点を目指せるならジョッキーか調教師かという世界で、調教師を目指そうと心に決め、卒業後は厩務員、調教助手として経験を積んでいった。実際に厩舎で働いてみると、馬の力を引き出せなかったり、馬自身の不運もあったりして、1勝もできずに引退する馬が少なくなかった。

日本国内では現在、年間約7千頭のサラブレッドが生産される。しかし、このうちレースで活躍できるのはごく一部で、さらに、最高峰のGⅠレースに勝利して種牡馬や繁殖馬として余生を送れる馬は、ほんの一握りに過ぎない。それ以外は、乗馬用に転用される数も限られ、飼育に多額の費用がかかることもあって、引退後に行方不明や殺処分になるケースが多い。

そんな厳しい競馬の世界に飛び込んだ角居さんは、2000年に調教師免許を取得。翌年に待望の角居厩舎を開業し、わずか3年後に菊花賞でGⅠを初制覇して以来、最多勝利調教師賞3回、最多賞金獲得調教師賞5回という輝かしい実績を残してきた。

2007年の日本ダービーを制したウオッカに寄り添う角居さん

勝てる馬を育てられてこそ、救うことができる

調教師として活躍する一方、角居さんは引退していく馬を救いたいという想いをずっと持ち続けていた。しかし、「実績のない人間が一頭二頭の馬を救ったところで何も変わらない。レースで勝てる馬をしっかり育て、周りから認められる調教師になってこそ、自分の発言も聞いてもらえ、組織的な活動で引退馬を救うことができるようになる」との信念で、調教師の仕事にまい進してきた。牧場時代に抱いた競走馬を支えながら生きていくという想いを、角居さんはトップトレーナーになるまで決して忘れることはなかったのである。

具体的な活動の契機となったのは「ホースセラピー」との出合いだった。馬を使って不登校や引きこもりの子どもたちを支援する団体があることを知り、速く走るだけではない、馬が持つ癒やしの力など、高い能力を知ってもらおうと、イベントを企画。それが、2011年10月に行われた第1回の「サンクスホースデイズ」である。“馬に感謝する日”と題されたこのイベントには、障がい者をはじめ、大人から子どもまで大勢が参加し、馬との触れ合いや乗馬体験、馬術競技のアトラクションなどを通して馬の魅力を披露した。

馬との触れ合いが人々の心身を癒やす「ホースセラピー」
子どもから大人まで、馬と楽しみ馬に感謝する「サンクスホースデイズ」
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