CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2015年度受賞

山崎 充哲さん

事務所を兼ねる山崎さんの自宅でも預けられた魚を保護している

人びとの意識を変える大きな転機になった、東日本大震災

山崎さんは、出前授業などで小学校に行ったときも、必ず子どもたちと給食を食べ、話をする。「みんなのお椀に入っている肉は、豚さんが殺されて、多くの人の手を経てここに来ています。私たちはその命をいただいて生きているんです。もし残したら豚さんの命が無駄になってしまいます。大事に食べようね」。その日は給食がきれいになくなるという。

また東日本大震災も、生き物の命について多くの人が考えるきっかけとなった。

地震の揺れで水槽が割れ、停電でヒーターなどが使えなくなったことで、「なんとか命を助けたい」と、震災発生から2週間で4千匹もの鑑賞魚が持ち込まれたという。それまで1年間に持ち込まれる平均が1万匹だから、非常事態である。山崎さんはこのとき、「おさかなポスト」が、「飼いたくても飼えなくなった魚」の受け皿であることを、改めて実感したと話す。

約3カ月後に新しい飼い主を全国に募ると、引き取る人が次々に現れたそうだ。「命のリレー」を多くの人が知り、実践することになったのである。

東日本大震災の際は、熱帯魚のほかに多くのミドリガメが持ち込まれた

多摩川をいつまでも「良い子を育てる良い場所」に!

自然環境コンサルタントとして、全国約3000ヶ所の河川を見てきた山崎さんは、多摩川ほど年代によって異なる見方をする川も珍しいと話す。「かなり年配の方は、昔の多摩川は良かったなと言います。私たちより下の世代は、昔の多摩川には戻りたくないと言います。さらに、きれいになった多摩川しか知らない若い人たちは、今が一番だと言います」

そんな多摩川に、幼いころは両親に連れられて遊びに行き、一人で行けるようになってからは、子どもの足で20分かかる坂道を毎日のように上り下りして通った山崎さん。「自然の素晴らしさ、命の大切さを教えてくれた多摩川は、いつまでも、その自然や命の大切さを理解し次の世代に伝えていくことができる、良い子を育てる良い場所であってほしい」と想いを込める。

これまで命の大切さを伝えてきた子どもたちも成長し、二世も生まれ始めているという。「伝えた想いはきっと次の世代に引き継がれていくと思います」。そう言って山崎さんは目を細める。

「おさかなポスト」が要らなくなる日まで、愛する多摩川のために

移動水族館では実際に魚に触れて「命」を体感する

山崎さんは、「おさかなポスト」の活動に加え、子どもたちを対象にした出前授業や移動水族館、流域のゴミ拾い、水辺の安全教室などにも力を入れている。また、多くの仲間や家族の協力を得て、稚アユを集めて放流する「多摩川春のあゆ祭り」や、ライフジャケットを着て多摩川を泳ぐ体験を水の事故防止に役立てる「夏休み多摩川教室」を10年以上続けている。

これらのイベントでは、川での楽しい遊び方を教えるとともに、川をきれいにするため家でできることや、外来種が生態系に与える影響も一緒に考えてもらっている。さらに、一人で川に行ってはいけないことや、もし川に落ちたらどうすればいいかなど、安全の基本を学ばせている。

今も、200種類以上の外来種が生息する多摩川。山崎さんは、「皆さんが、責任を持って最後まで生き物を飼うことの意味や、自然を守るために何が必要か理解が深まっていけば、『おさかなポスト』もやがて要らなくなるでしょう。そんな日が来るまで、この大切な命のリレーを続けていきます」と熱く語る。

「多摩川春のあゆ祭り」では、「大きくな~れ」の掛け声とともに子どもたちが一斉にアユを放流
Page Top
Page Top