CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2015年度受賞

山崎 充哲さん

想いの込められた髪が笑顔を取り戻すきっかけに

命のリレーで多摩川を
未来へとつなぐ

子どもの涙がきっかけで生まれた「おさかなポスト」

東京都と神奈川県の県境となっている多摩川のほとり、川崎市多摩区の稲田公園内にある生けすに、「おさかなポスト」という名前の水槽がある。

「さまざま理由で、観賞魚やカメを飼えなくなった人が、なんとか命を助けたいと持ち込み、ここで預かっています」。地元に生まれ育ち、多摩川を見続けてきた自然環境コンサルタントの山崎充哲さんが、ここに「おさかなポスト」を設置したのは2005年。きっかけは、金魚の入ったビニール袋を持って泣いている男の子との出会いだった。

聞けば、お母さんから川に捨ててくるように言われたという。「それなら、おじさんが預かってあげるよ」。見かねた山崎さんが、自ら組合員である川崎河川漁業協同組合が管理する稲田公園の生けすに入れてあげると、男の子は喜んで帰っていった。

ところが、その子が友だちに話したのか、わずか1カ月の間に300匹もの金魚や熱帯魚が生けすに集まったのである。「そうか、みんな困っていたんだ」。こうして、山崎さんは生けすに「おさかなポスト」と名前を付け、家で飼えなくなった魚などを引き取る活動を始めたのである。

「おさかなポスト」に預けられた魚やカメを見る山崎さんのまなざしは、常にあたたかい

外来種が越冬できるようになった「タマゾン川」

多摩川で確認された外来魚

「おさかなポスト」は、観賞魚などを引き取ることで多摩川に外来種が放流されることを防ぎ、生態系を守る重要な役割を果たしている。

昭和40年代に「死の川」とまで言われた多摩川。それが現在は、春に数百万匹ものアユが遡上するきれいな川によみがえった。「これは、流域の皆さんの努力と経済的な負担によるものです」。流域の人たちは水道料金に加え、それよりも高い場合が多い下水道料金を毎月負担し、下水処理場の整備を支えたのである。「自分の家と川がつながっていることを皆が意識したことで、多摩川は生き返ることができました」と山崎さんは話す。

しかし、その一方で深刻になってきたのが外来種の急増だった。しかも、下水処理場には各家庭からお風呂や台所のお湯が集まり、汚れを除去する際にも水温が上がるため、それらが流れ込む多摩川の温度が上昇し、熱帯の外来種が越冬できるようになったのである。「タマ川」ならぬ「タマゾン川」である。山崎さんが調べてみると、シルバーアロワナ、ピラニア、アリゲーターガーパイクなど、本来多摩川にいるはずのない魚が次々に見つかった。

かつて「死の川」とまで言われた多摩川には、現在、春に数百万匹のアユが遡上する

「おさかなポスト」から全国へ。続けられる「命のリレー」

山崎さんは、外来種の放流を防ぐ活動のため、「おさかなポストの会」というNPO法人もつくった。活動は次第に知られるようになり、設置から10年で持ち込まれた魚の数は優に10万匹を超えている。人手はボランティアや老人クラブの協力も得ているが、エサ代や電気代など毎月50万円ほどかかる費用は自らの負担だ。

地道な努力により、稲田公園周辺の多摩川水域では外来種の姿がかなり少なくなった。しかし、山崎さんは決して外来種の駆除をしているわけではない。ポストに持ち込まれた魚は「預かった命」であり、新しい飼い主に引き取ってもらうことで「命のリレー」が続けられているのだ。これまで全国300校以上の小学校が協力し、個人や高齢者施設、児童養護施設、水族館などへも命のリレーが行われている。

山崎さんは子どもたちにこんな話をする。「飼っていた金魚が死んでもゴミとして捨てないでください。花壇の隅に埋めて花の種をまけば、埋めた金魚の栄養をもらって花が咲き、また新しい種ができて命のリレーができます」と。

「おさかなポスト」には、毎日のように多くの人が魚を預けに訪れる
命の大切さを伝えながら、子どもたちの前で魚を捌く山崎さん
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