
ドナーから贈られた髪をウィッグにするには、信頼できる髪の処理業者やウィッグ製作会社を探し出す必要があった。このため、しっかり機能する流れを作るまでには多くの困難が伴い、NPO立ち上げからウィッグ製作の体制が整うまで、実に2年が費やされたのである。
最初の希望者は、病気治療の影響で髪が抜けてしまった女子高校生だった。つらい闘病生活に耐え、やっと退院が決まり復学できることになったが、悩みは髪の毛だった。しかし高額な人毛ウィッグは親に負担をかけることになる。そんなときJHDACの存在を知ったのだという。
電話やメールでやりとりを重ね、採寸も無事に行うことができた。そして来店の日、髪が抜けてから見るのがつらかった鏡の前に座ってもらい、初めてウィッグを提供することができた。ほどなく届いたお礼のメールには、ウィッグをカットしてもらっているとき、鏡を見ながら込み上げてきた「久しぶりに、本当の自分の笑顔を見た気がします」という喜びが綴られていた。
家族や友達を心配させないための笑顔ではない、「本当の自分の笑顔」という言葉が今も忘れられないと渡辺さんは言う。