CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2015年度受賞

特定非営利活動法人 Japan Hair Donation & Charity

想いの込められた髪が笑顔を取り戻すきっかけに

想いの込められた髪が
笑顔を取り戻すきっかけに

髪への恩返しの想いも込めた「ヘアドネーション」

「ただ髪を切ってお金をいただくだけでは、日本に美容室が1軒増えるに過ぎません。30年近く髪を生業としてきた自分たちだからこそできる活動がしたいと考えたのです」

2008年、渡辺さんたち3人の美容師が、大阪市北区にある築70年の古民家を改装し、美容室「The Salon」を共同で立ち上げたとき、店の理念として自分たちらしい社会貢献をしようと決めた。

創立メンバーの一人、万福さんは、「ただ仕事をするだけではなく、社会に貢献することで人はバランスが取れると思うのです。だから自分たちのためでもあったのです」と振り返る。そこで注目したのが、当時アメリカで普及していた、病気の治療や無毛症などで髪に悩む子どもたちにウィッグを贈る「ヘアドネーション」という活動である。

3人は、美容師にとって生活の糧である髪に恩返しする想いも込め、「ヘアドネーション」を始めようと考えたのだ。そして翌2009年、髪を贈りたい人(ドナー)とウィッグを必要とする子どもたちをつなぐNPO法人「Japan Hair Donation & Charity(通称:JHDAC)を設立したのである。

人毛ウィッグは自然さが違うと声をそろえる、延岡さん、万福さん、渡辺さん(左から)

「本当の笑顔」を届けることができた、初めてのウィッグ提供

築70年の古民家を改装した「The Salon」

ドナーから贈られた髪をウィッグにするには、信頼できる髪の処理業者やウィッグ製作会社を探し出す必要があった。このため、しっかり機能する流れを作るまでには多くの困難が伴い、NPO立ち上げからウィッグ製作の体制が整うまで、実に2年が費やされたのである。

最初の希望者は、病気治療の影響で髪が抜けてしまった女子高校生だった。つらい闘病生活に耐え、やっと退院が決まり復学できることになったが、悩みは髪の毛だった。しかし高額な人毛ウィッグは親に負担をかけることになる。そんなときJHDACの存在を知ったのだという。

電話やメールでやりとりを重ね、採寸も無事に行うことができた。そして来店の日、髪が抜けてから見るのがつらかった鏡の前に座ってもらい、初めてウィッグを提供することができた。ほどなく届いたお礼のメールには、ウィッグをカットしてもらっているとき、鏡を見ながら込み上げてきた「久しぶりに、本当の自分の笑顔を見た気がします」という喜びが綴られていた。

家族や友達を心配させないための笑顔ではない、「本当の自分の笑顔」という言葉が今も忘れられないと渡辺さんは言う。

ドナーの想いも受け止めながら、贈られた髪を束ねていく渡辺さん

「必要な子に役立てて」と、毎日届く30~50人分もの髪

JHDACでは、18歳以下の子どもたちを対象にウィッグの提供を行っている。年齢に上限を設けている理由には、市販の人毛ウィッグが高額でオーダーすると最低でも40~50万円かかることに加え、子ども用のサイズが非常に少ないことがある。また18歳は、多くの子どもたちにとって制服を着て集団生活を送る最終年齢であり、まわりの目が気になる彼らに、より自然な人毛ウィッグを提供したいという思いがある。

1つの人毛ウィッグには、31センチ以上の髪が20~30人分必要だが、当初は週に1通ほどしか届かなかった。それが、ヘアドネーションに協力した人がSNSや新聞の読者欄などに投稿するようになり、個人や活動に賛同する美容室から届く数が増えてきた。

2012年からJHDACに参加している美容師の延岡さんも「電車のなかでヘアドネーションの話題を耳にすることもあり、活動の広がりを実感します」と話す。賛同美容室は全国で800店を超え、1日に30~50通もの髪が届くようになった。ウィッグ1つの製作に必要な費用約10万円は、賛同美容室に置かれた募金箱の寄付で賄われている。

SNSなどを通じてヘアドネーションの活動は急速に広がった
ウィッグ制作費を支えている募金箱
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