
「一年持たないかも」と思った運動だが、2010年12月時点で、NPOの自殺防止ボランティアは90名近くにまで増えている。このうち20名が東尋坊の海岸線をパトロールし、自殺を企図しているのではないかと声をかけ、そうであれば考え直すよう説得する。昨10年中に74人を保護、累計300人の命を瀬戸際から救出した。つれて東尋坊の自殺者は年々減り、08年は15人、09年は14人に止まっている。
茂さんによると「自殺しようとする人は、不況を映して経済的に行き詰った人が多く、また職場でのイジメやパワハラに遭った人も少なくない。生活が壊れ、心が壊れた人を救うには、一時的な保護では問題を解決できません」という。このため福井市内にシェルター(避難所)用の部屋を借りているだけでなく、各地に支援者を得てシェルターを設ける一方、負債の整理や再就職の斡旋、働く環境の整備など、事細かな支援を続けている。自殺防止を訴える講演会にも積極的に参加している。
「それにしても」と、朴訥な風貌をした茂さんは怒る。「行政は困っている人をたらいまわしにするだけで、例えば東尋坊に自殺防止用の柵を設けることさえしない。夜間の監視カメラの設置だって同様です。どうしてなのでしょうか」