CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2009年度受賞

茂 幸雄さん

自殺志願者の再出発を支える「東尋坊のちょっと待ておじさん」

自殺志願者の再出発を支える
「東尋坊のちょっと待ておじさん」

取材・文:清丸恵三郎

7年半前の、忘れられない出来事

2003年9月3日午後6時――。

「心に響く文集・編集局」代表で、「自殺のない社会づくりネットワークささえあい」代表の茂幸雄さんは、7年半ほど前のその日その時のことを決して忘れないと語る。

当時、茂さんは福井県警三国署(現坂井西署)副署長。管轄内にあって、年平均25名がそそり立つ25メートルの断崖から飛び降り自殺する東尋坊へ、いつものようにパトロールに出た。定年を前に、警察人生最後の仕事としてこの北陸有数の景勝地から自殺者を無くしたいと考え、勤務時間を終えた日没時刻を見回りに充てていたのである。

と、まだ夏の明かりが西の水平線上に残るベンチで、くたびれきった初老の男女が手首から血を流しているのを発見した。「どうしたんですか」と尋ねても、「あなたには関係ないです」と言うばかり。それでも粘り強く尋ねると、「東京で居酒屋をやっていたが赤字が続き、借金がかなり残った。再起不能であとは死ぬしかないと思いここまで来たのです」と明かした。

一通の手紙で知る、思いがけない現実

(右)パトロールする茂さん

茂さんは二人に自殺を思い止まらせるとともに、生活保護法により自治体は居住者でなくても生活が行き詰った人を保護する責任があることを教え、地元の町役場(当時)に身柄を引き継いだ。あの二人は暗夜に灯火を得た思いだったろうと思い、茂さんも一安心したものだった。

だが数日後、茂さんのもとに新潟県長岡市発信で、一通の手紙が届いた。手紙の主はあの男女だった。茂さんは町役場が保護してくれたとばかり思っていたが、隣町まで行ける程度の交通費を渡し、体よく追っ払ってしまっていたのだ。東京に帰ろうと、長岡まで7ヶ所の行政窓口を訪れ命乞いしたが、いずこも扱いは同じで、二人は茂さんの親切に感謝しつつも、野宿を続けた挙句、生きていく気力を失ったと記していた。茂さんは急ぎ長岡市役所に電話した。だが時すでに遅く、男女は帰らぬ人になっていた。

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