CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2009年度受賞

多以良 泉己さん

運命の事故から立ち上がり、パン作りと出会う

多以良さんがパン作りを始めたのは、2006年初頭。事故後のリハビリのためだった。指先を使うと脳のリハビリになると思い至った総子さんが、すすめたのだ。お母さんが和菓子の仕事をしていたことから、多以良さんも小さい頃からおやつを手作りしていた。そんなことで、割合すんなりとパン作りにも取り組めたのである。

前年まで、多以良さんはバンクの上を猛スピードで走る競輪選手だった。25歳と遅いデビューだったが、着実に実力をつけていた矢先の05年8月27日、大宮競輪場でのレースで接触事故に巻き込まれる。脊髄や頚椎を損傷して首から下が麻痺しただけでなく、前頭葉、側頭葉など脳にも大きなダメージをうけた。

生きるか死ぬかの危機を乗り越え、さらに入籍半年の総子さんと二人三脚でリハビリに努め、介助がなくても歩けるまでに回復した。だが左足はいまだ麻痺したままだし、疲れたときや気圧が変化したときなどには猛烈な頭痛が襲ってくる。記憶が突然、途切れたりすることも。1日3個のパンは、そうした多以良さんにとり精一杯の努力の賜物なのである。

思いを乗せた「天使のパン」が今日も待ち焦がれる人のもとに

全国から寄せられたお礼のお手紙

パンが焼きあがった。外側はこんがり、中はしっとり柔らかだ。小麦のいい香りが漂う。

総子さんがその場で包装し、手書きのレターを添えて注文主に発送する。テレビや新聞で夫妻のことを知り、癌の夫を支える妻、心を病む娘を見守る家族などが「天使のパン」から力を得たいと注文してくる。余命宣告された人やお年寄りなどもいて、多少順番を前後させるが、今だと7年半先まで待ってもらうことになるという。

そう書くと超繁盛店のようだが、儲かっているわけではない。パン作りではとても生計を立てられないので、家計は、総子さんがイベントの司会などをして支えている。ここでも二人三脚が続いている。

いま多以良さんの夢は、来年夏ロンドンで開かれるパラリンピックで、自転車のタイムトライアル・レースに出場すること。そのため体調がよいときに、室内でローラーを使って練習している。

だが、室内では風を感じない。「風を感じながら走りたいんです」と多以良さん。きっと頬を掠め流れ去る風の先にパラリンピック出場があり、多くの人がまた、そのことによって元気づけられるに違いない。

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