CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2009年度受賞

多以良 泉己さん

夫婦のパン工房で今日も焼き上がる、思いの詰まった「天使のパン」。

夫婦のパン工房で今日も
焼き上がる、思いの詰まった
「天使のパン」。

取材・文:清丸恵三郎

1日3個だけ焼かれる「天使のパン」

多以良泉己さんは、1日3個しか焼かないパン屋さんだ。しかし今では「天使のパン」と呼ばれ、知る人ぞ知るパン・ケーキ工房である。工房は鎌倉市の高台にある。

多以良さんのパン作りは、早朝の午前3時ころから始まる。起床はさらに早く2時過ぎ。

起きると、まず自宅1階作業室のエアコンのスイッチを入れる。温度と湿度を、パン作りに最適な状態に設定するためだ。

室温が23~25度ほどになるまで待ち、その間作業台に段取りを記したメモを置き、確認する。前夜のうちにどの注文主のためにどういうパンを作るか決めておくのだが、事故の後遺症(高次脳機能障害)を抱えているため、作業中も度々メモを確認する。記憶が途切れ、手順を間違えたりしてはいけないと思うからだ。

音楽をかけることも忘れない。曲目はクラシックだったり、ヒーリング音楽だったり、その朝の気分次第。自身の心を安らげるだけでなく、いい音楽はおいしいパンを作り出すと確信しているのだ。

できるだけ体に良い食材で、丁寧な仕事

1.8斤分の小麦、水、バター、砂糖、塩を正確に計量、イタリア大理石一枚板の作業台でこねる。台は、4歳年上の奥さん宇佐美総子さんの手作り。パン生地を作るに最適なのだという。

こね方も泉己流。生地にストレスを与えないよう、素手でやわらかく撫でるように。満遍なくこねられていくうちに生地は粘りをもち、おもちのようにふんわり丸くなっていく。多以良さんの手も、ほんわか柔らかい。

作業は二度のベンチタイムを入れて、14回を超える工程を経る。焼き上がりまで、およそ3時間。それでようやく食パン1.8斤ができあがる。これを日に3度繰り返す。あどけない顔立ちだが、作業中の目は真剣そのものだ。

原料はオーガニック中心。つまり保存料など添加物が一切ないもの。小麦粉は残留農薬の心配のない、オーストラリア、カナダ産の一等粉。塩は、ギネスブックでミネラルの含有量が世界一という宮古島の「雪塩」。バターは北海道産の発酵バターといった具合。できるだけ体にいい食材を使おうと、全国を歩き回って探してきたものばかり。

一つひとつの作業は丁寧で真剣
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