CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2008年度受賞

出水市立 荘中学校

幼鳥とみられる姿も見えるナベヅル

白み始める空の下、無数のツルが視界に

金久先生は「ツルクラブの活動は、科学的な考えを涵養するとともに、自然との共生、環境問題への関心をはじめ生徒に様々な教育上のメリットをもたらしているが、そのことを含め、この羽数調査を継続することが何よりも大切だと言い続けています」と語る。

40数年にわたり、ボランティアで生徒たちの羽数調査活動を支えてきた吉尾直善さんは、この日、「これまでの最高羽数は9年前の1万3521羽だが、私の見るところ今回はその数を上回るのではないかと思います」と期待を口にしていた。

生徒たちが持ち場に散っておよそ30分、東の空がかすかに白み始めると、ツルの鳴き声が次第に高まってくる。飛行時の秀麗な姿とはほど遠い、猫のような声である。田んぼの中に蟻のように群がりうごめくツルが見える。空気は依然、肌を切り裂くように冷たい。

割り当てられた調査地点でツルの飛翔を待つ

ツルの群れを追い、押し続けるカウンター!

「あっ、飛んだ」

「向こうでも、飛び立った」

フィールドスコープや双眼鏡を覗き、ツルの動きに神経を集中していた生徒たちから声が上がる。目を凝らしてみると、薄闇の中を3羽、あるいは4羽と滑空するように飛び立っていくのが見える。ツルは基本的には家族単位で行動するのだという。そのうちいくつもの集団がつぎつぎと飛び立ち始め、それはまるで壮大な編隊飛行のショーのように見える。生徒たちはツルの群れを追いながらカウンターを押し続ける。

7時過ぎ、あたりは完全に明るくなり、圧倒的な迫力と感動とともにようやくツルたちの大地と天空を舞台にした群舞は幕を下ろした。

生徒たちは、再び観察センターに集合し、カウントした羽数の集計に入る。もう一つの休遊地東干拓地で96年から調査を行っている隣接の高尾野中学ツルクラブのメンバーも合流する。吉尾さんが期待する新記録が出るかどうか、期待感が高まる。

無事に幕を下ろした50年目の調査

(左)ツルクラブ部長 坂下智世さん(右)羽数調査中は緊張が続く

「1万0596羽!」

最終結果は思いがけない数字になった。

「結果は予想を下回った。一気にたくさん飛んだので数え切れなかったからだと思います。羽数調査は本当に難しい。しかしそのこととは別に今季の調査を、6回とも無事に終えられて、いまはほっとしています。私自身、ツルクラブの活動を通じて、環境に関することとかツルに関することを様々に考えるようになったし、積極的にいろんなことに加われるようにもなった。それにみんなで協力してやっていくことが、活動に深まりをもたらしたようにも思います。後輩には(調査を)ずっと続けていってほしいし、私自身は高校生になるが手伝っていきたい。また環境問題へ、今後とも意識して目を向けていきたいと思っています」

ツルクラブ部長を務める坂下智世さんの、この日の、そして3年間の活動の総括である。

生徒たちには、お母さん方の心がこもった、あったかいトン汁とおにぎりが待っていた。冷え切った体には何よりうれしいご馳走である。

荘中学校生徒による、50年目のツル羽数調査はこうして幕を閉じた。

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