CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2008年度受賞

出水市立 荘中学校

厳冬にツルを見守り半世紀。いまや世界有数の渡来地に!

厳冬にツルを見守り半世紀。
いまや世界有数の渡来地に!

取材・文:清丸恵三郎

肌をさす寒風のなか生徒たちが続々と到着

2010年1月9日払暁―。鹿児島県の北西端、熊本県境に近い出水市は南国とはいえ、紫尾山系から吹き降ろす季節風で芯まで凍えるほどの寒さだった。

まだ夜も明けぬ午前5時ころ、出水市立荘中学校の男女生徒19人が自転車で所定の集合場所に集まってきた。すでに金久三男校長先生以下の教職員やボランティアの高校生、それに保護者たちも姿を見せている。

この日、荘中学校の全校生徒が参加するツルクラブによる、シーズン最後(6回目)の渡来してきたツルの羽数調査が行われることになっていた。保護者は、心無いドライバーが騒音を撒き散らして走り抜けたり、照明を当てて脅かしたりして、ねぐらにいるツルたちが突然飛び立ってしまわないよう、減光などの協力を呼びかけるために周辺の道路で立哨するのである。

朝を迎えようとする出水平野

わずか275羽から1万羽以上の渡来地へ

羽数調査を前にした早朝の打ち合わせ

出水平野は古くからツルの越冬地として知られてきた。だが戦前の1939(昭和14)年に現在の荘地区荒崎の田んぼを中心に3,908羽を数えた渡来数は、戦争が終わった1947年には275羽まで激減していた。それが1952年に地域全体が「ツルとその渡来地」として国の特別天然記念物に指定され、前後して荘地区の人たちの熱心な保護活動が始まったことから、渡来数は次第に増加していった。地区の人たちはツルの安全を確保するためにねぐらに水をはり、近接した餌場にはいわしや小麦などを撒いた。努力が実り1997(平成9)年度には1万羽を突破、以来、2009年度まで13季連続して1万羽を超える「万羽ヅル」を記録、今では世界一のツルの渡来地となっている。もっとも鳥インフルエンザなどの問題もあり、最近では逆に渡来地の分散化を図るべきではないかとの意見も強まっている。

現在、シベリア方面から出水にやってくるツルはナベヅル、マナヅルが圧倒的に多く、他にクロヅル、ナベクロヅル、アネハヅル、ソデグロヅル、カナダヅルで、釧路湿原などで見られるタンチョウは気温の関係でほとんど姿を見せない。

ナベヅルを中心とした出水で越冬するツル

息をひそめ4つの調査地点から飛翔を待つ

集合した生徒たちは、ツルの人工ねぐらがある荒崎休遊地を見渡すことのできるツル観察センターに移動、そこで先生方からの指示を受け、割り当てられた4箇所の調査地点に向かう。カウントの仕方は、台形をしている休遊地の4辺を1グループずつで担当、日の出とともに餌場に向かって飛び立っていくツルの習性を利用して羽数を数える。もちろん戻ってくるのもいるので、それは別にカウントし、あとでマイナスする。またねぐらに残ったツルもいるので、それも別に数え最終的に加算する。科学的統計法に基づく手法だ。

荘中学校の生徒たちが羽数調査を開始したのは、ちょうど50年前の1960年10月のこと。当初はツル保護監視員の指導を受けた荒崎地区に住む生徒たちの自主的活動だったので、名称も特になかった。それが1962年に「ツルクラブ」の名称ができ、1966年からは学校公認の正式なクラブとなった。その後、生徒数の減少から生徒全員がメンバーとなる全校的活動となって現在に至っている。

ツル観察センターからツルの様子をうかがう
Page Top
Page Top