CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2008年度受賞

伊藤 和也さん

  • 伊藤和也さんが私たちに
    遺してくれたもの

    NGOカレーズの会副理事長
    静岡県ボランティア協会常務理事
    小野田全宏さん

2008年の8月26日のことは、思い出すと今も胸が震える思いがします。静岡県出身の伊藤和也さんがアフガニスタンで誘拐されたとの一報をテレビで知り、もしや私どもの「カレーズの会」を手伝ってくれていたあの伊藤さんではないかと思い至ったからです。
「(誘拐報道が)間違いであってほしい」「何とか無事であってほしい」と念じながら、急いで会のデータベースをチェックしたところ、2003年7月23日に私どもの会に入会の申し込みをされていた伊藤さんであることが分かりました。

同姓同名の違う人ということもありますので、記入してあるご自宅へ電話を入れたところ、お父様が出られ「確かにアフガニスタンへ行っています。連絡がとれなくなっており心配しているところです」ということでした。そこでご家族の方も心細い思いでおられるだろうと思い、ご了解を得て掛川市のご自宅へ駆けつけることにしたのです。

移動の途中、私の脳裏に去来したのは、最初にお会いした日の伊藤さんでした。

小柄ながらおとなしげで、まことに純朴な風貌をした青年が私どもの事務所に現れ、カレーズの会に入りたいというのです。理由を聞きますと、「アフガニスタンに行きたいんです」と即座に返ってきました。
「どうして?」
「アフガニスタンを本来あるべき緑豊かな国に戻すお手伝いをしたいんです。そしてアフガンの子供たちが将来食べるものに困らないようにしてあげたいんです」

ぼそぼそとした語り口だが、伊藤さんの胸の内はアフガンで農業をやり、国づくりのお手伝いをしたいという思いで溢れているように見えました。
「私もアフガニスタンに行ったことがあったんですが、砂漠の厳しさや荒廃した国土には想像を絶するものがありました。またカレーズの会は、立ち上げてまだ1年ほどしか経っていなくて、伊藤さんが希望していた農業分野での活動実績も無く、日本人を現地に送り込むだけの力がないんです」とお答えさせていただきました。

しかし、その後も伊藤さんは我々が静岡県内で行っている写真展や講演会に来て、会場の設営準備や受付など熱心にやってくれていました。その間も、彼の中に早くアフガンへ行って農業支援をしたいという思いがたぎっていたのでしょう。中村哲医師が現地代表を務める「ペシャワール会」に参加、03年12月に単身、現地に渡ったのです。

今回の事件に遭遇してしまった後に現地で共に活動をしていた仲間の皆さんに話を聞きますと、「彼はアフガニスタンの人にやってあげるんだという、偉ぶった姿勢を一切見せなかった」「いつもアフガニスタンの人たちの目線で生活していた」と口を揃えて語っていました。

最初にお会いしたときに私が受けた印象のように、伊藤さんは純朴なまま、自然体でアフガニスタンの人に接し、農業支援に取り組まれていたのだなと確信しました。

伊藤さんのアフガニスタンでの農業支援活動は、サツマイモの栽培、ブドウの栽培、お茶や米作りと多岐にわたり、いずれも着実に現地の人たちに根づいています。

目を瞑ると、日本からやってくる専門家の指導をうけながら、現地に根を下ろして、アフガニスタンの人たちと同じように泥にまみれて苦闘する伊藤さんの、照れ笑いを浮かべた姿が目に浮かびます。

しかし伊藤さんが遺していった何より大事なことは、現地の人たちの中に溶け込み、その地でともに生き、骨を埋めるんだという「パーマネントの思想」を抱いていたことだと、私は思います。パートタイマーの支援ではなく、腰をすえた支援と言い換えてもいいかもしれません。

それゆえ、伊藤さんの仕事と伊藤さんの存在はアフガニスタンの人たちの心に、何時までも残っていくと思っています。伊藤和也さんは生きています。

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