CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2006年度受賞

有城 覚さん

婚約当時の有城さん夫妻

動物たちのために引っ越しをくり返す日々

やがて二人は結婚する。新居のベランダに置かれた古タンスには、一段ごとにハムスターやリスなどが、またアパートの裏のプレハブ小屋には別の動物が飼われるようになっていく。間もなく秀春さん、加織さんという2人の子どもにも恵まれるが、引っ越す時は常にたくさんの動物たちが一緒。「それで周りにも迷惑をかけるし、家族4人が住むには狭すぎるということで、滋賀県の近江八幡に家を買った。しかしそこも動物が増えて手狭になり、私たち家族は近所のマンションに移り住まざるを得なくなったんです」

(写真上)左:長男 秀春さん(小学5年生)、右:長女 加織さん(幼稚園)(写真左下)自宅前で、小学5年生の加織さん(写真右下)中学2年生の秀春さん

「移動動物園を開いてくれませんか」

そんなある日、小学生5年生だった加織さんの担任が家庭訪問に訪れた。たくさんの動物に驚くとともに、数日後、「ぜひ文化祭の日に、学校に来て移動動物園を開いてくれませんか。子供たちも喜ぶと思いますから」と電話がかかってきた。当日、有城さんは「110番動物園」と書いた旗を持って小学校へ出かけた。なぜ「110番動物園」かと言えば、どの動物も「命のピンチに追い込まれたものばかり」だったからである。接着剤で目を塞がれてしまった猫、毛を剃られてしまったモルモット、甲羅が割られた亀などなど。

かわいそうな動物と触れあったうえでの、有城さんの命がいかに大切かという訴えは、子供たちだけでなく、先生方にも大きな感動を与えた。有城さんがボランティアで行う移動動物園は人から人へと伝えられ、新聞などにも取り上げられ、小学校や幼稚園などに次々と招かれるようになった。いまや回数は900回近くになる。「元気なうちに1,000回を達成したいと思っています」と有城さんは意欲的だ。

子どもたちの理解が今は、何よりもうれしい

とはいえ有城さん一家は、無事平穏に今までやってきたわけではない。夫婦の病気のこともそうだが、例えば子どもたちは家庭生活を犠牲にしてまでも動物を助け、育てる有城さんに反発し、ある時期口もきいてくれなかったことさえあった。

「部屋を動物たちに占拠されて、家族4人1つの部屋で雑魚寝するようなことさえありましたからね。お金の面でも子どもたちには辛い思いをさせました」

しかし今、年金のほとんどを動物たちのえさ代などに費やしてしまう有城さん夫婦の生活は秀春さんと同居することで成り立っており、100メートルほど離れたところで家庭をもつ加織さんも頻繁に食事を届けてくれたりするのだという。「ある時期、子どもは僕を目の敵にしていた。しかし社会人になって、僕の生き方を容認できるようになったのでしょうね。そんな子どもに育ってくれたことが、何よりもうれしい」

自らの病気と繁子さんの病気を抱えながら、2人の子どもと近所の橋本鉄男さん・正子さん夫妻に助けてもらいながら、「慈愛」の心を育てることの大切さを訴える有城さんは、今日も動物たちの世話に余念がない。

互いに支え合いながら動物の世話を続ける有城さん夫妻
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