CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2006年度受賞

有城 覚さん

110番動物園が伝える命の大切さ

110番動物園が伝える
命の大切さ

取材・文:清丸恵三郎

自然に囲まれた、やさしさあふれる動物園

JR近江八幡駅から車で30分ほど、紅葉で知られる湖東の名刹永源寺にほど近い有城さんの私設動物園に伺うと、そのやさしさが実によくわかる。

訪れたのは時雨のそぼ降る季節だったが、黒豚やアヒルなどが放し飼いにされており、鳥舎にはインコやカナリヤなどが籠で飼われている。棟続きには大きな陸亀もいれば、イグアナもいる。アライグマやタヌキも見える。もちろん犬やニワトリもにぎやかに鳴き騒いでいる。臭いや鳴き声で近所に迷惑がかからないようにという配慮からこの土地を選んだとのこと、近所に家などない。

夢は、この動物園を「市民憩いの家」にすること

110番動物園では、放し飼いのアヒルやニワトリたちが出迎えてくれる

園内は動物の臭気と暖房でむっとするほどだ。全部で150匹(羽)を超えるという。しかもこれらはすべて捨てられていたり、行政機関から持ち込まれたりしたものばかり。血統書つきの動物など1匹もいない。

「ここ数年は、鳥インフルエンザの関係で、学校で飼っていたニワトリなどを、父兄からのクレームを受けて先生方から『面倒を見ていただけませんやろか』と持ち込まれるケースが多い。兵庫県あたりからも持ってこられます」

この動物園は、有城さんが自らの退職金をはたいて造ったもので、最終的には「市民憩いの家」にして公開したいと考えている。ただしここ数年で3度にわたる大手術を受けたこともあって未完成だ。だが動物を愛してやまない有城さんと奥さんの繁子さんにとって、夢の城と言っていいだろう。「シチズン・オブ・ザ・イヤーで頂いた賞金で内装など整えようと材料まで買い込んだのですが、そんなことでまだ手付かずのままなんですわ」

そう言いながら、有城さんはかたわらの繁子さんに目をやりつつ微笑を浮かべた。繁子さんは認知症を患っており、それやこれやで有城さんは公私共に大変な状況にあるのだが、おだやかな言葉遣いを崩すことはない。

ただ、子どもたちの願いに応えたかった

有城さんは、1944年に福井県で生まれた。武生高校時代はなうての暴れん坊だったそうだが、正義感の強さを認めて勧める警官がいてこの道に進んだ。たまたま最初の任地となった下鴨署高野交番に子どもたちがキジバトのひなを持ち込んできた。巣から落ちたこのひなを、有城さんは助けられなかった。次に持ち込まれた、車に轢かれた亀の場合も同様だった。

子どもたちの願いに応えられるおまわりさんになりたいと考えた有城さんは、非番の日に京都市立動物園を訪ね、傷ついた動物や鳥の治療法やえさのやり方を学び始め、いつとはなしに動物に詳しいおまわりさんと周囲から認められるようになっていた。

次の任地は舞鶴東署。ある日、白バイ隊員になっていた有城さんが署に帰ってみると、トンビのひなが持ちこまれていた。有城さんは興奮したトンビを段ボール箱にそっと入れ、毎日えさをやり始めた。手伝ってくれたのが事務員だった繁子さんである。

定年退職時に、点検官として服装や装備品をチェックする有城さん
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