CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2006年度受賞

川越 恒豊さん

刑務所内の人気番組DJとして受刑者と向き合い続ける

刑務所内の人気番組DJとして
受刑者と向き合い続ける

取材・文:清丸恵三郎

受刑者の心を癒す「730ナイトアワー」

富山刑務所は、市の中心部から5キロほど南に下った郊外にある。富山空港にほど近く、東のほうを望むと雪を抱いた雄大な立山連峰が見える。その富山刑務所では、12月を除く毎月最終月曜日の夜7時半から9時まで、男女3人のパーソナリティの声が所内に流れ、560~70人いる受刑者のともすれば殺伐になりがちな心を癒している。ここはB級刑務所で、受刑者は中部管内中心に全国から送られてきた刑期8年未満の再入所者である。

全国的にも稀有な、この受刑者向けの自主放送「730ナイトアワー」は1979年にスタートし、すでに丸30年以上経過、回数も350回を越えている。この間、無休かつ無給でメインパーソナリティをつとめてきたのがマイクネーム「ほうじょう豊」こと川越恒豊さんだ。640年前から続く古刹清源禅寺の30世住職でもある。お通夜とぶつかった時は、そちらをずらしてでも駆けつける。

「私はこの刑務所で1997年から教誨師(きょうかいし)をつとめている。一方で地元ラジオ局のパーソナリティもやっていた。そうしたこともあってか、教育担当の刑務官から、所内向けの番組ができないか尋ねられた。それがそもそもの始まりです」

受刑者の「心のキャッチャー」を目指して

一人ではやりづらいので、同じラジオ番組の女性パーソナリティに応援を頼んだ。金丸典子さんといい、本職のアナウンサーだったが、快諾してくれた。もちろんボランティア。「女性の声が所内に流れることで、番組のなごみ度合いは大きく増した」と川越さんは語る。現在の女性パーソナリティ、中田好美さんは二代目で、踊りのお師匠さん。番組開始から10年目に交代し、今はさらにもう一人、谷口真己子さんが加わっている。

番組は、音楽とおしゃべりが交互に流れる構成になっており、音楽は受刑者からのリクエスト、おしゃべりは毎回決められたテーマについて、受刑者から募った投書が中心になっている。テーマは「母」「食べたいもの」など様々。

「テーマは放送当日に知らされる。生放送ですが、前もって読まずにぶっつけ本番。瞬間的に思ったことを私が話し、それに女性が共鳴するように話すスタイル。投書は重なりがあったり、つまらない部分があったりしても全部読むことにしている。彼らの生き様が投影していると思うから。それによって彼らが社会から認めてもらえたと思い、生きる支え、更生への力づけにもなるはず。心の荒んでいる人もおり、どういう球が来るかわからないが、彼らの『心のキャッチャー』になってあげられればと思ってやっています」

第1回の放送風景。左は初代女性パーソナリティの金丸典子さん
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