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シチズン・オブ・ザ・イヤー選考委員長
武内陶子さん

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2024年度受賞
渡辺和代さん
世界的権威の言葉を励みに小児がん治療と向き合う
- 武内
- フエ市で活動を始めたころ現地の医療従事者たちには、小児がんは治らない病気という認識があり、まずそこを変えるため世界的に著名な先生(医師)にご協力いただいたそうですね。そうした先生だとアプローチするだけでも大変だと思いますが。
- 渡辺
- ちょうど、世界の医療従事者の会議がシンガポールであるという情報を得て参加し、たまたま同じセッションに小児がんの権威である先生がいらっしゃったんです。それで、自分が今やろうとしていることを話したら、「あなたのような人が必要なんです。よく参加してくれました。私たちにできることは何でもします」と言っていただきました。
- 武内
- それで、海外の専門医や医療機関と、フエの医療従事者をつなげていただいたのですね。そんな風に、出会った方から力をもらいながら、渡辺さん自身も力を増して協力者の輪が広がっていくのがすごいですね。私は今、能登で「まちのラジオ」という災害FMの立ち上げをお手伝いしているのですが、放送の技術やノウハウをお伝えすることはできても、やはり365日取り組んでいくのは現地の人たちです。皆さんのためにどうかかわっていくのが一番いいのか、いつも考えているんです。
- 渡辺
- わかります。私も現地の医療従事者の皆さんのモチベーションを高め、仕事にやりがいや誇りを持ってもらえるため、次に何をすべきかいつも考えています。

スタッフの意識改革と成長が素晴らしい成果に
- 武内
- 渡辺さんの場合、医療従事者だけでなく、子どもたちや親御さん一人ひとりにも向き合っていることが尊いと思います。これまでの20年間、命にかかわる活動を続けてこられた中で、ずっと大切にしてきたのはどんなことでしょう。
- 渡辺
- いちばんは、子どもたちの命が幼くして奪われず、満面の笑みで遊んでいる瞬間に自分が立ち会えることに感謝することを大切にしてきました。そのために、子どもたちの元気な成長を願いながら、直面している病気を治すにはどんなお手伝いができるか、それをずっと考えてきました。
- 武内
- その甲斐があって、急性リンパ性白血病の5年生存率が1割から7割にまで高めることができました。さまざまな要因が複層的に作用し合っていると思いますが、成果をあげた最大のポイントは何でしょう。
- 渡辺
- やはり人だと思います。患者である子どもたちを中心に、小児がんの医師や看護師が知識や技術を吸収してレベルが上がり、それぞれの専門性を活かす外科医や放射線科医、病理医などと一致団結して連携・協力することで、診断から治療、フォローアップがきちんとできた結果だと思います。
- 武内
- そこには、先ほどおっしゃった海外のエキスパートの先生と常につながり、いつでも相談できる体制を整えたことも大きかったんでしょうね。

信念を貫く生き方が人を惹きつけ活動を後押し

- 武内
- 実は私の父も医師で、社会人として新たな人生を踏み出すときに1枚のメモを渡してくれて、そこには「叩けよ、さらば開かれん」と書いてあったのです。思い返せば、本当に人生のさまざまな場面で、叩けば何とか道が開かれてきたように思います。
- 渡辺
- その言葉に込められた想いが、武内さんご自身の生き方や考え方に、ポジティブに反映されているのではないでしょうか。
- 武内
- 人間の生き方って周りがきちんと見ていて、渡辺さんが現地で「日本のお母さん」と呼ばれているのも、小児病棟の子どもたちやその家族、医療スタッフたちが、これまでの渡辺さんの生き方を見てきているからではないかと思います。今回の受賞につながった記事を書いた新聞記者の方も、渡辺さんの生き方をしっかり見られていたからこそ、その記事から立ち上がってくるものがあり、私たちもそれを見逃さなくて良かったと本当に思います。
- 渡辺
- 記事をきっかけに、受賞の喜びをこれまでかかわってきた皆さんと共有できたことに感謝しています。アメリカに行った中学生のときから、帰国して大学に行き、金融機関で働き、その後ベトナムに生き、父の死があり、またベトナムに行ってと、私は人生のチャプターがとても短いスパンで切り替わってきました。そして、そのチャプターごとに出会った人や出来事が、いつの間にかすべてつながっているような気がして、それを今回の受賞で見つめ直すことができ、こうした対談の機会もいただいたことは本当にありがたいです。
- 武内
- これからも渡辺さんの人生が続く中で、また次のチャプターで活躍されることを期待しています。そして、小児がんを克服した子どもたちが、ささやかでもいいから、成長して命を未来につなげるムーブメントを起こしていくことを願っています。

(右上)子どもたちのため頑張っているフエ中央病院小児センター小児がん病棟スタッフと
(左下)「日本のお母さん」と呼んでくれている小児がん病棟の子どもたちと
(右下)支援した子どもたちからのグリーティングカードや写真はかけがえのない宝物だ


