CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2023年受賞

フラワーメイクアカデミー「ブラインジェンヌ」チーム

「ブラインジェンヌ」の講座では顔の部位が的確に伝わるよう「つぼ」の名称を使用

「触れる」ことを大切に「つぼ」も取り入れて

こうして、2023年1月、当事者目線で指導する北條さんが講師となり、化粧療法研究家の江口美和子さんとフェイシャルトレーナーの工藤めぐみさんがサポートする「ブラインジェンヌ」チームの講座がスタートしたのです。

講座は主に、洗顔や顔のマッサージ法などを実践するスキンケア編と、化粧を学ぶメーク編で構成。説明は北條さんが行い、江口さんと工藤さんが受講者の正しい手の位置の確認などで視覚情報をサポートしています。その特徴の一つは、自分の指や手をガイドにし、自愛の気持ちを持って「心に触れるように肌に触れること」を大切にしている点です。江口さんはそれを「マインドタッチ」と表現します。

そしてもう一つの大きな特徴が、目頭と鼻の付け根にある「睛明(せいめい)」や小鼻の両脇にある「迎香(げいこう)」など、講座の説明に「つぼ」の名称を使っていることです。視覚障がい者には、はり・きゅうの知識を持つ人が多く、つぼを中心とした説明の方が、顔の部位が的確に伝わり、同時に美容と健康への効果も期待できることから採用しました。

実際、視覚障がい者にメーク法を伝える上では言葉の表現が難しく、どう伝えるのがいいかチームでよく話し合うそうです。それだけに伝わったときの喜びも大きく、自分たちも勇気や元気がもらえると江口さんも工藤さんも実感を込めます。また北條さんは、視覚障がい者の中にはまず目頭がどこで小鼻がどこかといったことから説明しなければならない人もいるということがあり、講師として自ら学ぶことも多いと言います。

メーク講座のとき江口さん、北條さん、工藤さんは、視覚障がい者にメーク法をどう表現し伝えるのがいいか何度も話し合う。それだけに、的確に伝わったときの喜びもひとしおだ

人々に自信と咲顔(えがお)を届けるメークの力

そうした受講生の中には、「メークに興味はあったが、どう使えばいいのかわからなかった」と買ったまま一度も使っていない化粧品を持ってくる人もいます。そこで使い方を指導してメークができるようになっていくと、「家族に見てもらったらすごくほめられ、自分に自信が持てるようになりました」と、その喜びを話してくれました。

また、目が不自由なことで「交友関係が狭くなってしまう」「結婚に向けて踏み出すことができない」という受講生もいました。それが、メークができるようになってからは、「人に見られる喜びを知って、人前に立てる自信を得ました」と言うまでに変化が表れた人もいます。メークは前に進む力や、何かに挑戦する力を引き出せることにもつながるのではないかと、北條さんたちは思っています。

ほかにも就職活動の面接でメークをほめられ、社会に踏み出す一助にもなった例もあり、「メーク自体に人を元気にする力があるんです」と工藤さんは話します。自身も体調を崩して入院し精神的にも疲れていた時、友人がスキンケア用品を持ってきてくれて、毎日自分の肌に触れ、鏡で自分の顔を見てメークするうち、気持ちも前向きになり体調も回復したそうです。

「ブラインジェンヌ」チームでは、メークを楽しみ自分に自信を持てたときの表情を「咲顔(えがお)」と表現する。まさにきれいに咲いた花が並んだようだ

三人四脚で、自分らしく輝く人を全国に!

(上)視覚障がい者の特別支援学校を訪れてメーク講座を行うなど、活動は広がりを見せている
(下)メークを楽しむ敷居を低くするため、100円ショップの道具なども上手に活用

2023年の9月から10月には、フラワーメイクアカデミーの活動として、「国立福岡視力障害センター」で2回にわたり「ブラインジェンヌメイク」の講座が行われ、江口さん、北條さんが講師として参加しました。約20人の全盲や弱視の男女が受講して化粧法やスキンケアを学ぶなど、活動がまた広がりました。

さらに今年6月には福岡高等視覚特別支援学校で講座を開催。生徒たちに自分の手で肌に触れてもらいながらケアの大切さを解説し、そのあと一人ひとりの手を取って眉の整え方やファンデーションの付け方などをやさしく指導しました。終了後には「自分に合うメーク法があることがわかり気持ちが軽くなった」「対話をしながら学ぶことができてうれしかった」などの声が聞かれました。

動画サイトYouTubeを活用した「ブラインジェンヌメイク」の紹介も話題になっており、使うメーク道具も専用の高価なものではなく、100円ショップで手に入るような道具を活用して敷居を低くし、まずメークを楽しんでもらうことを大事にしています。

メーク講師として歩み始め、受講生がさらに向上心を持ったり、そのために相談を受けることで自分の成長にもつながっているという北條さん。それがこの活動の何よりのやりがいだと言います。そんな北條さんを見て、江口さんは「講師として育っていくのを見るのがうれしい」と話し、工藤さんも自分たちと受講生が一緒に咲顔(えがお)になる瞬間が一番力になると笑みがこぼれます。

北條さんは、「自分でメークした視覚障がい者が出演し、目が見えない人でも理解し楽しめるファッションショーをいつか開催することが夢」と話します。その夢の実現も含め、それぞれ異なる役目を担っている自分たちが、これからも三人四脚で進んでいくことが大事と声をそろえる皆さん。視覚障がい者にメークを指導できる講師が増え、自分らしく輝く人が全国に広がっていくよう、ブラインジェンヌチームの活動は続いていきます。

北條さんの夢は視覚障がい者のファッションショーを開催すること。これからもたくさんの人の咲顔(えがお)を輝かせる、三人四脚の活動は続いていく
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