戸籍がないことの不利益は多く、国家資格の取得以外にも、国民健康保険に加入できず病院に行けないことや、婚姻届けが出せないこと、子どもが生まれても無戸籍になってしまうことなど多岐にわたる。間違いなくそこにいて生活しているのに、「存在しない人」になってしまうのだ。
しかし、実際に戸籍取得の支援を始めてみると、そこには多大な労力と時間、そして交渉力が必要で、並大抵のことではないことを痛感した。「その人が日本人かどうかを誰が証明するのか、そして何歳なのかをどう証明するのか」。まず、そこから始めなければならなかった。
それでも、最初に支援した従業員は運が良かったと市川さんは振り返る。「学校に通っていたので卒業写真があり、卒業証明書も出してもらえます。さらに、教育委員会から学齢簿という書類も出してもらえるので、その子が何歳なのかの証拠になります」。加えて、このときは市役所や法務局の担当者も親身に手助けをしてくれたという。とは言え、戸籍の取得までには1年8カ月かかった。
こうして戸籍取得の大変さを経験した市川さんは、無戸籍の問題に横たわる闇の深さも知ることになった。法務省が公表している無戸籍者の数は2023年1月現在で785人となっているが、実際にはもっと多くの無戸籍者がいると考えられ、「そもそも無戸籍になる原因は多岐にわたり、その人数は数えようがないのです」と言う。