CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2017年度受賞

清水 辰吉さん

子どもたちの健やかな成長への願いを苗木に託して

子どもたちの
健やかな成長への
願いを苗木に託して

長女の入学記念植樹をきっかけにスタート

「この苗木はどんどん育って、天をつくように大きくなるよ。皆さんも木に負けないよう元気に大きく育ってね」

群馬県安中市に住む元群馬県職員の清水辰吉さんが、そんなふうに声を掛けて、地元小学校の新入生に苗木を贈るようになったのは1963年のこと。当時、県の林業指導職員として緑化事業に取り組んでいたこともあり、前年の春、長女の掲子(けいこ)さんが小学校に入学した際に、娘の健やかな成長を願って自宅の庭にスモモ、モモ、ブドウの3本を植えたことがきっかけだった。

このとき清水さんは、「卒業記念の植樹はよく耳にするが、入学記念はあまり聞かない。これは、新入学を迎えるほかの家庭でも喜んでもらえるのでは」と直感。娘が通う地元の上後閑小学校(現在は後閑小学校に統合)の校長先生に申し出て、翌年の入学式から新入生への苗木贈呈がスタートしたのである。

贈られる苗木には、「ふるさとを花と緑でいっぱいにしてほしい」という願いも込められており、子どもたちに地元への愛情を育む贈り物でもあった。

苗木の植樹方法や手入れの方法を丁寧に説明する清水さん

子どもたちと一緒に育っていく特別な贈り物

兄弟姉妹はもちろん、親子2代にわたり贈呈された家庭も少なくない

入学や卒業時に贈られる記念品は多種多様あるが、苗木は贈り物の中でも特別で、子どもたちと一緒に成長していく。清水さんはそんな苗木を、ツツジやサクラ、ハナミズキ、クリ、ミカン、モモ、カキ、キンモクセイなど多彩に用意し、毎年新一年生に贈呈してきた。

活動は半世紀以上に及ぶため、兄弟姉妹はもちろん、親子二代にわたって苗木を贈られた家庭も珍しくない。始めてから56年目となった2018年の入学式でも、清水さんは苗木の植え方や育て方とともに、苗木贈呈に込めた想いを14人の新入生と保護者に優しく語りかけた。

「今は、どうして苗木を植えるのだろうと思うかもしれません。でも、5年、10年、20年と経つうちに、木はどんどん大きくなって、花が咲き、実がなるようになります。そのときに、ああ、これは僕の木だ、私の木だと思って、入学式でもらったことや植えた日のことをきっと思い出すよ。お父さんもお母さんも、植えて良かった、子どもたちも苗木もこんなに大きくなったねと思い出すよ」。新入生を見つめる清水さんの目は、優しさに満ちていた。

贈呈する苗木の種類はツツジ、モモ、サクラなど多彩だ

新入生ゼロや小学校統合を乗り越え、贈り続ける

上後閑小学校(当時)の新入学児童がゼロになった年も、校庭に植樹して活動をつないだ

地元、上後閑小学校の児童数は、1959年をピークに減少傾向が続き、苗木の贈呈を始めた1963年以降も年々減っていった。そして2010年、贈呈を開始してから初めて新入学児童がゼロとなり、それまで継続してきた活動が途絶えそうになった。しかし清水さんは、「この活動を絶やすわけにはいかない」と、いつもと同じように苗木を準備し、上後閑小学校の校庭に植樹して活動を翌年につないだのである。

ところが、少子化の波は変わることなく、翌2011年、上後閑小学校は後閑小学校に統合され、その歴史に幕を下ろすことになった。

それでも、清水さんの苗木の贈呈が途絶えることはなかった。活動を始めたときの「子どもたちの健やかな成長と、故郷を花と緑でいっぱいに」という願いは変わらず、贈呈の場を統合された後閑小学校の入学式に移し、新入生に苗木を贈り続けている。

今年も14人の新入生に苗木を2本ずつ贈るため、人数分より多い30本の苗木を用意し、できるだけ好きな木を選べるようにした清水さん。贈呈時に植樹方法や手入れの仕方を説明するのも楽しみの一つといい、入学式を終えて帰宅するときは気分も爽やかだと話す。

入学当日は人数分より多い苗木を準備し、できるだけ好きな木を選んでもらう
苗木を贈られた親子>
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