CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2016年度受賞

NPO法人 就労ネットうじ みっくすはあつ

ひと針ひと針の糸がつなぐ選手の夢、地域との絆

ひと針ひと針の糸がつなぐ
選手の夢、地域との絆

「もったいない」をきっかけに始まったボール再生への挑戦

「みっくすはあつは縫製作業もやっているの? だったら、糸が切れた野球の硬式ボールも縫えるんじゃないかな」

京都府宇治市で、障害者の就労支援を行っているNPO法人就労ネットうじ みっくすはあつの管理者、小畑治さんは、2009年、ある会合の席で知人の大門和彦さんから話しかけられた。

プロ野球、元横浜ベイスターズの投手だった大門さんは、現役引退後、実業家の道を歩む一方、社会貢献活動にも積極的に携わり、小畑さんと交流があった。そんな大門さんが、母校の東宇治高校の野球部を訪ねたとき、糸が切れて使われなくなった多くの硬式ボールが放置されているのを目にした。「もったいない」と思うと同時に、高校時代に自分たちで修繕していたことを思い出し、みっくすはあつの仕事にならないかと考えたのだ。

小畑さんも、「話を聞いたとき、ボールの再生を通して施設の利用者と野球部の生徒さんにつながりができれば、きっと良い相乗効果が生まれるのではないかと思いました」という。

こうして、みっくすはあつの利用者とスタッフの皆さん、そして大門さんによるチャレンジが始まったのである。

エコボールは男女10名ほどが作業に携わり、1日平均20~30個を再生している

活動の広がりを予感させた、少しでこぼこな「エコボール」の誕生

糸が切れた硬式ボール

糸が切れた硬式ボールは、テープを巻いてトスバッティングなどに使われ、そのあと破棄されている。しかし、修繕すれば練習用のボールとして立派に使え、寿命が3~4倍に延びて経費の節約にもなるのだ。

小畑さんは、糸の切れたボールの再生が、みっくすはあつの新しい仕事になればと考えた。そこで、さっそく糸の切れたボールを20個預かり、高校時代にボールを縫っていた大門さんの指導のもと、利用者とスタッフで修繕にチャレンジしたのである。

20個のボールを修繕してみると、見た目はあまりよくなかったが、何とか再生できた。表面が少しでこぼこのボールを見ながら、この活動はきっと広がるという予感が小畑さんにはあったという。修繕したボールを高校に持っていくと、出来は良くないながらも喜んでもらえ、それから預かる個数も増えていった。再生したボールには、みんなで「エコボール」という名前をつけた。

ボールの縫い方を熱心に指導する元横浜ベイスターズの大門さん

野球部員たちに芽生えた、ものを大切にする心や感謝の気持ち

ボールの修繕を始めてみると、それぞれの利用者ごとに得意な工程があることも分かってきた。切れた糸をほどく人、縫い合わせる人、縫った糸を最後に止める人、糸を丈夫にするためロウを塗る人など、小畑さんはそれぞれの役割をじっくり考え、作業を分担するようにした。修繕には全盲の利用者も参加し、縫い上がったボールを一つひとつ丁寧に磨いてくれた。

「それでも、納得できるレベルになるまで1年かかりました」と小畑さんは振り返る。その間に、活動に共感した地元企業が糸や針を提供してくれるなど、地域との新たな結びつきもできた。こうして、清掃の受託作業や手作り品の製作・販売、飲食事業などとともに、エコボールがみっくすはあつの大切な仕事の一つになったのである。

活動は野球部の監督同士のつながりを中心に口コミで京都府内の高校、大学へと広がっていった。その背景には、単に経費が節約できるだけなく、部員がものを大切に扱うようになる、障害のある人たちが一生懸命ボールを縫ってくれることに感謝する気持が芽生えるなど、教育的な効果が大きな理由になっている。

それぞれの得意な工程を分担し、丁寧に修繕していきます
手作りの色紙を手渡すなど、エコボールで繋がる野球部の応援には自然と熱が入る
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