CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2014年度受賞

阪井 ひとみさん

井上弁護士と打ち合わせをする阪井さん

支援のネットワークを広げ、入居者を安心で包み込む

生活保護の申請で断られるなど、不動産業者ができることの限界を感じ出ていた阪井さんに大きな出会いが訪れる。自分と同じように精神科に長期入院している患者の問題に取り組んでいる井上雅雄弁護士と知り合い、ネットワークが広がったのだ。そして翌2009年、不動産業者、弁護士、医師、看護師、社会福祉士、社会労務士、さらに行政も連携して社会的弱者を支えるNPO法人「おかやま入居支援センター」が立ち上げられたのである。

「支援している人のなかには、自己判断ができず、お金頂戴って言えば出しちゃう人もいて、たかる人が出てくるのです。そういう人のお金を管理する後見人や、食生活のチェックが必要な人をサポートする人、デイサービスや通院のアドバイスをする人など、法律や福祉、医療などのプロがそれぞれの専門分野を生かしてサポートすることで、社会的に弱い人を安心で包むことができるのです」

皆で協力して支援することで、「一人ひとりが、自分らしく生きてもらえたら本当にうれしい」と阪井さんは日々の活動に思いを込める。

阪井さんが入居支援した部屋

住まいを必要とする人のため、次の一歩を踏み出す入居者たち

阪井さんは、「衣食住」のなかで「住」がすべての基本だと話す。「住むところが安定すると、次は掃除や洗濯をしはじめ、食事を作ったり、毎日お風呂に入るようになったりします。そして、自分らしい暮らしが一つずつできるようになって、働くことも考えるようになるのです」

「サクラソウ」では入居者同士がお互いの話や悩みを聞いて支え合い、誰かに幻聴などが出てくると入居者が気付いて連絡し、早めに対処することができる。地域の人のため用水路の掃除や草抜き、ゴミ拾いなども行う。「人の役に立とうと汗を流す彼らの姿に、地域の理解も変わりつつあります」。

「僕、今度結婚するんです!」。阪井さんのもとに舞い込んできたうれしいニュース。ここで生活を整えると、住まいが必要な次の人のため転居していく入居者は少なくないという。「住む場所が見つからない辛さは自分たちが一番知っているので、困っている人を助けたいという思いが強いんです。私も、この場所は自立するための通過点でいいと思っているんです」。そして、日本人が大切にしてきた他人への思いやりの心を、むしろ彼らから感じると阪井さんは話す。

心の病気に理解が深まり、それぞれが自分らしく働ける社会に

精神障害への理解を深めてもらうため、全国で講演を行っている

心の病気は、決して恥ずかしいことや特別なことではないという信念のもと、阪井さんはその理解を深めてもらうため入居支援の合間をぬって全国で講演を行っている。また、精神障害の人たちが歴史的にどんな生活をし、どういう治療を受け、社会がどう対応してきたかなどを紹介する資料館を岡山市内に今春開設した。海外にも目を向け、精神病院を廃して地域で暮らせるよう取り組んでいるイタリアの事例を紹介している。

さらに阪井さんは今、精神障害の人たちが働ける「会社」づくりに力を注いでいる。「入居者に話を聞くと、『会社』で働きたいんだと言う人が多いんですね。一般の人と同じように社会保険の健康保険証をもらうことは彼らにとって涙が出るほどうれしいことなのです。その人らしく生きるということは、その人らしく働けるようにすることだと思うのです。一人でも多くの入居者に、なんとかそれを実現・実感させてあげたい」

入居支援から自立支援へ。精神障害の人たちへの理解が深まり、自分の意思で働き暮らせる社会を目指し、阪井さんの取り組みはこれからも続く。

精神障害について、さまざまな角度から紹介するため開設した資料館と展示物
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