CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2014年度受賞

阪井 ひとみさん

心安らぐ住まいが自分らしく生きる力に

心安らぐ住まいが
自分らしく生きる力に

心に病があっても、自分の意思で働き自由に暮らせる町に

不動産業を営む阪井ひとみさんが、自ら管理するマンション「サクラソウ」に姿を見せると、入居者たちが待ちかねたように笑顔で話しかけてくる。ここには、阪井さんが入居支援した約50人が住む。住むところが見つからないために、何十年も長期入院を余儀なくされたり、精神障害を理由にアパートへの入居を拒まれたり、劣悪な住環境を強いられたりと、社会的弱者を取り巻く過酷な現実を目の当たりにして入居支援を始め、すでに20年近い。現在、管理する物件にはそうした人たち約450人が暮らしている。

活動のネットワークも広がり、弁護士、医師、司法書士、税理士、社会福祉士などと連携し、地域で自立した生活ができるよう入居後の支援も行っている。「入居者ご自身にも自分がたくさんの人に支えられていることは分かります。それが、自分は独りじゃない、困ったらこれだけの人が助けてくれるんだという、安心感につながっていると思います」

「心に病気があっても、皆自分の力で生きたいと思っているんです」と話す阪井さん。現在も、一人でも多くの人が自分の意思で働き自由に暮らせるようにと、支援活動に取り組んでいる。

「サクラソウ」の作業所だった場所を利用したカフェ「ノア」は、入居者たちが自分たちで店長を務め、貴重な交流の場となっている

きっかけは、精神を病んでしまった入居者からの電話

足が悪いのに2階に住まわされている人もいた

「誰かが俺を殺そうとしている !」。阪井さんのもとに入居者の男性から連絡が入ったのは19年前のこと。すぐに駆けつけると男性は錯乱状態で、妄想に苦しんでいた。しかし、家族に電話しても「関わりたくない」と取り合わない。病院を探してたどり着いたのが精神科だった。

医師の診断は「統合失調症」。離婚をきっかけに、心の病気になっていたのだ。

このことをきっかけに病院へ通うことになった阪井さんは、数カ月後、その病院から「退院後の入居先で困っている患者がたくさんいる」と相談を持ちかけられる。詳しく話を聞いてみると、家族に見放され部屋が確保できないため50年も入院している患者がいるという。たとえ部屋が見つかっても、台所や風呂が壊れていたり、トイレを修繕されなかったり、畳や壁がボロボロでも「貸してやっている」という態度で、家賃に上乗せして貸し出す大家…。こうした実態を知った阪井さんは強い憤りを覚え、支援に乗り出したのである。

普通の感覚では考えられない劣悪な部屋の実態

偏見は根強く、自分が管理するアパートに受け入れ

精神障害の人たちが置かれている状況を知った阪井さんは、同業者や家主に協力を求めるが、「あんたが好きでやっとるんだから」「精神障害者にはこの地域で生活してほしくない」と突き放される。当時はそれほど偏見や差別が根強かったのだ。加えて、住まいが確保できても、再び入院すると部屋も家財道具も処分されて帰るところがなくなるため、体調が悪くても我慢してしまい、病気が悪化する悪循環があった。

そうしたなかで阪井さんは、自ら保証人になり、管理するアパートに受け入れるなどして入居支援を続けた。そんな姿に理解者や協力者のネットワークが生まれ、支援の対象も家族から見放された精神障害者だけでなく、刑務所から出所した人や親から虐待を受けた若者、長年のホームレス生活で体を壊した人などさまざまに広がっていった。「家がないため、何度も刑務所に入っていた男性が、自分の住まいが確保できてからはただの一度も罪を犯しません」と阪井さんは話す。

精神科の病院に近いアパートでは、医師らと連携して関係者がそこの駐車場を借り、入居者の様子を毎日確認できる仕組みも作っている。

毎日のように「サクラソウ」を訪れる阪井さん
病院と関係者が駐車場を借りることで、毎日入居者を見守る仕組みになっているアパート
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