CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2013年度受賞

上中別府 チエさん

孫より若いチームメートを元気づける

「きっとチームが成長する」と先生が野球部へスカウト

高校でのチエさんは、華道部、書道部に所属し、授業も真剣そのもの。そんな姿を見て担任の中島先生は「きっとチームが成長する」と、顧問をしている野球部に誘った。

入部したチエさんは、球拾いやグラウンド整備など自分にできることでチームに貢献。差し入れする手づくりのパンやおにぎりは、皆のお腹だけでなく心も満たした。

翌年のホワイトデー、仲間は日頃のお礼の気持ちを込め、赤いグラブをプレゼント。チエさんはそのグラブを毎日家に持ち帰り、柔らかくなるよう布団の下に敷いて寝た。

2013年5月、全国高等学校定時制通信制軟式野球大会の神奈川予選が開幕。1回戦、一緒に頑張ってきたチエさんを試合に出してあげたいと、中島先生は大量リードした5回裏、チエさんにレフトの守備につくよう言った。

「みんなが点を取って自分を出してくれたことを思いながら、こんなボールが飛んで来たらこうしようと何通りも考えて守っていました」。ボールは来ませんでしたが、次の日学校でチエさんは「100歳まで長生きするつもりだったけど、ドキドキして3歳寿命が縮みました」と先生を笑わせた。

チエさんの「ドラフト1位指名」を伝える中島先生手作りの新聞

決勝戦で皆をリラックスさせた最高の伝令役

神奈川県予選の決勝、1点リードを許したものの、息詰まる投手戦が続く6回裏。一死満塁のピンチを迎えた高津高校のベンチから、背番号12番をつけた選手が伝令に飛び出した。

その姿に気づいて、スタンドから湧き上がる歓声と拍手。チエさんだった。一礼してマウンドに近づくと、気付いた選手全員が一斉に帽子を取って笑顔で迎え、雰囲気ががらりと変わった。

「みんな普段の顔じゃなかったんですよ。それが、私に気付いたら急に表情が柔らかくなって、ああ良かった! 自分も役に立てたんだと思いました。『落ち着いてね』とピッチャーのお尻をポンと叩いてベンチに戻ると、中島先生から『お疲れさま。みんなリラックスしましたね』とねぎらいの言葉をいただきました」

その日、高津高校は惜しくも敗れ、全国大会出場はかなわなかった。しかし、試合後、チエさんは悔し涙を流すチームメートに「敗れはしたけれど、こんないいチームはない、日本一だと思う。就職するにしても進学するにしても、この経験を糧に頑張ってほしい」と励ました。

スタンドに掲げられた「夢と希望と元気をありがとう!」

野球部での活躍が新聞報道されたこともあり、その夏、チエさんは日本女子プロ野球機構の依頼を受け、女子プロ野球リーグの大会で始球式をすることになった。

自前でボールを用意し、チームメートの指導を受けながら投球練習を重ねるチエさん。始球式の当日、中島先生から贈られた背番号83(年齢と同じ番号)のユニホームでマウンドに向かうチエさんの背中には、チームメートや同級生、先生たちから惜しみない声援が送られた。振り向くと、皆が掲げる大きな横断幕が目に飛び込み胸が熱くなった。そこには力強い文字で「チエさん 夢と希望と元気をありがとう!」と書かれていた。

2014年3月1日、4年間通った高津高校定時制卒業の日、すっかり手になじんだチエさんの赤いグラブには、仲間からのお礼のメッセージがたくさん書き込まれた。卒業生の輪のなかには、「結婚式に呼びます」という女生徒の言葉に、「きっと行くね」と笑うチエさんの姿があった。

チエさんの、変わることのない人生の目標は「生涯現役」。卒業後も書道、水墨画、絵手紙、水泳と新たなチャレンジの日々が始まっている。

日本女子プロ野球の始球式で掲げられた、感謝の横断幕
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