CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2013年度受賞

上中別府 チエさん

学べる喜びと、すべての出会いに感謝して

学べる喜びと、
すべての出会いに感謝して

70代から夜間学校で学び常に挑戦を続ける

2014年3月1日、上中別府チエさんは、4年間通った川崎市立高津高校定時制で卒業の日を迎えた。70代半ばで中学校の夜間学級に入学し、もっと勉強したいと79歳で高校に進学。誰とでも分け隔てなく接するチエさんは、中学でも高校でも、孫よりも若い同級生たちから慕われ、先生に心を開かない生徒もチエさんとは不思議と素直に話ができた。

高校では「チエさんが入れば、チームはもっと成長する」と、先生や仲間から請われて野球部に入部。いつも元気に声を出し、笑顔で球拾いやグラウンド整備を続ける姿からは、チームメートが学ぶことは多かった。

「今は楽しかった高校を卒業し、次の目標を決めて、書道と水墨画と絵手紙と水泳を始めました。くよくよするのが好きじゃないから、いつも先のことを考えているんです。先に楽しみがあれば、今日を元気に頑張れます」チエさんはそう笑顔で話す。

好きな言葉は「生涯現役」。何事にも全力で取り組む姿は、いつも周りの人たちを勇気づけ、元気づけている。

15歳で終戦。決して消えることのなかった進学の夢

ご主人とは旅行で日本全国を巡りました

1930年(昭和5年)、上中別府チエさんは、鹿児島県の農家に7人兄弟の4女として生まれた。日本が戦争へと突き進む時代で、学校では、好きだったそろばんや習字の時間が、空襲に備えた消火訓練のバケツリレーなどに代わっていった。

女学校に進学したいという気持ちを心の底にしまい15歳で終戦。24歳のとき結婚し、一男一女に恵まれ、その後、夫の転勤で神奈川県川崎市に移り住み幸せな家庭を築いた。

2004年、50年間連れ添ったご主人が亡くなり、チエさんの心に大きな穴が開いてしまう。線香を上げ、お経を読む毎日。「家に閉じこもってばかりじゃ、いけない」。見かねた娘さんのひと言に、チエさんは本来の自分を取り戻した。「そうだ、勉強をしよう」

区役所で、義務教育を9年間受けていない人は夜間中学に入れると教えられ、早速、川崎市立西中原中学校の夜間学級に電話をすると「大丈夫」との返事。すぐに学校に行き、その場で入学を決めたのは、76歳の春のことだった。

持ち前の明るさで築いた幸せな家庭

40年以上、心にしまっていた英語を学びたい想い

「数学でマイナスとマイナスを掛けるとプラスになることを始めて知りました」など、中学での勉強は喜びと驚きの連続だった。なかでも英語には特別な思いがあった。

かつて、中学校に入った長女が英語を勉強しているのを見て、チエさんは衝撃を受けた。国語や算数はある程度教えてあげられたが、英語はまったく分からない。寂しさや悔しさが入り混じり、チエさんは家族に内緒で参考書を買いに行った。しかし、独学ではやはり難しい。そのとき英語の参考書も学びたい気持ちも心にしまい込んだのだ。

入学後、その英語の授業が週に2回では物足りなかったチエさんは、「1時間早く来るので教えてください」と、先生に懇願し、夏も冬も毎日早く登校して、3年生の時にはオバマ大統領のスピーチが読めるまでになった。

中学卒業時、「もっと勉強がしたい」と79歳で川崎市立高津高校定時制を受験し合格。定時制には、いじめにあったり不登校だったりと、さまざまな事情を持つ生徒がいたが、誰にでも自然体で接するチエさんは、すぐに皆から慕われるようになった。

中学校の入学式
40年以上、大切にしまっておいた英語の参考書
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