CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2013年度受賞

TOY工房どんぐり

「一人ひとりの伸びる力を布のやさしさで育てたい」

「一人ひとりの伸びる力を
布のやさしさで育てたい」

「本当にほしいのは、こういうおもちゃじゃないんです」

1983年、世田谷ボランティア協会の代田ボランティアビューロー事業が始まったとき、手仕事の好きな女性が裁縫道具を持ち寄り、寄付された布などを使いおもちゃづくりを始めた。それが「TOY工房どんぐり」の出発点である。最初は月に1回程度、10人くらいで集まり、既存のおもちゃを見よう見まねで作り、出来上がったおもちゃを近くの養護学校や小学校の特別支援学級などに寄贈していた。

そんな小さなボランティアグループに転機が訪れる。ある日、タペストリーにしたクリスマスツリーを学校に持っていくと、お礼を言いながらも、一人の先生から思いがけない悩みを打ち明けられたのだ。「本当にほしいのは、こういうおもちゃじゃないんです。障害のある子どもたちそれぞれに合った、教育に使えるおもちゃなんです」。

「そうなんだ…。それなら自分たちでオリジナルのおもちゃを作ってみたらどうだろう」。こうして、TOY工房どんぐりの、本格的な障害児向けの布おもちゃづくりが始まったのである。

(写真左)お話を伺った、代表の河村豊子さん(左)と、デザイン担当の穂苅弓さん

お母さんの手づくりおもちゃがTOY工房どんぐりの原点

「山手線一周ゲーム」

ちょうどその頃、障害のある子どものお母さんが活動に参加することになった。そして、そのお母さんが子どもの障害に合わせ、自分なりにアイデアを活かしながら一生懸命おもちゃを手づくりしていることを知った。それが、今でもTOY工房どんぐりで人気のある「山手線一周ゲーム」の原型となったおもちゃである。

電車が好きな子どものため、山手線をすごろくのようにすすんでいく中で、ものを投げる力を養ったり、遊びながら数が理解できるなど、お母さんのさまざまなアイデアや工夫が散りばめられていた。まさに、一人ひとりの障害に合わせ、能力を引き出せるようにおもちゃを作っていく、TOY工房どんぐりの原点がそこにあったのである。

「山手線一周ゲーム」は、ベースとなったそのお母さんのおもちゃにさまざまな工夫を施し、時代の変化と共に改良を加えながら、現在もTOY工房どんぐりの代表的な布おもちゃのひとつになっている。

作業風景

材料費をもらう決断が活動発展や品質向上の契機に

1989年、TOY工房どんぐりに再び大きな転機が訪れる。京都で行われた福祉関係のコンペで、「さかなつり」が優秀賞、「なかまあつめ」と「ジャンケンさいころ」が佳作を受賞し、布おもちゃの注文が急増したのだ。このため、助成金や寄付された材料だけでは活動の存続が難しくなった。

「材料費だけでももらってはという声に、ボランティアなので材料費を取るのは嫌だ、という方もいて議論を重ねました。最終的には、良いもの作るためにはやはり必要だということで決断したのです」と、代表の河村さんは、当時を振り返る。

結果的には、この決断がTOY工房どんぐりの活動が30年以上続く大きな要因になった。材料費をもらうことで、作る側には今まで以上に責任感が生まれ、少しでも良いものを作ろうという気持ちが強くなり、依頼する側も意見や要望が言いやすくなったのである。また、パーツがなくなったり壊れたりしたときには連絡をもらえ、結果として長く大切に使ってもらえるようになった。

(左下)三つ折りの中にお話しを凝縮させている布絵本
(右上)先生の声や自分たちのアイデアで進化してきた「さかなつり」のさかな
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