CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2011年度受賞

税所 篤快さん

記念すべき『e-Educationプロジェクト』スタート時の生徒全員がそろって

やってみなさい!Do it ! Do it ! Go Ahead !!

税所さんはユヌス博士にプレゼンする機会を待った。そして迎えた運命の日、昼食をとっているユヌス博士に素早く近づいた税所さんは、ノートパソコンをさっと開き一気にプレゼンを行ったのである。教師が4万人不足していること。自分が日本で映像授業を受け大学に合格したこと。誰もが最高の授業を受けられること。そして最後に、「このプロジェクトで教育格差、教師不足に挑みたいんです」と熱い思いを伝えた。

黙って聞いていたユヌス博士は、やがて口を開いた。「おもしろい。やってみなさい。Do it ! Do it ! Go Ahead !! 」

2010年6月、こうして『e-Education プロジェクト』がスタートしたのである。税所さんたちは、農村出身のダッカ大生マヒンという心強いパートナーを得て、実際に授業を聴講して選んだ英語、国語、社会の最高レベルの講師を口説き落とした。

その後、プロジェクトの手続きの問題などでグラミン銀行から独立した税所さんは、高校時代から折に触れアドバイスを受けていた2人の恩師から資金提供を受ける形で、プロジェクトを加速させた。

『e-Educationプロジェクト』を後押ししてくれた、グラミン銀行総裁のムハマド・ユヌス博士と

カリスマ講師の授業で受験勉強がスタート

プロジェクトの舞台となったのは、首都ダッカからバスと船を乗り継いで約8時間かかるマヒンの故郷、ハムチャー村だ。村はずれの古い小屋を教室として借り、映像授業に使うパソコンは友人から中古を寄贈してもらった。生徒は呼び掛けに応えて集まった約30名。いずれも貧困層の高校生たちである。

初授業の日、パソコンの画面にカリスマ講師が映し出されると、生徒たちにどよめきが起こった。「あのザハン先生だ!」。驚きや興奮と共に、映像授業による彼らの受験勉強がスタートしたのである。

生徒たちの学びたいという熱意は強かった。しかし、貧しい農村の現実がときに彼らの決意を揺らすこともあった。家の仕事を手伝わなければといった理由から、一度に3人の生徒が辞めたいと言い出したこともある。税所さんたちは、ダッカ大学を実際に見せることで、ここで学びたいという気持ちを持ってもらおうと見学ツアーを企画した。この試みは功を奏し、生徒たちのモチベーションを一気に高めることができた。

自らも結果を出さなければならないというプレッシャーと闘いながら、税所さんたちは、生徒たちに「自分たちの可能性を諦めないでほしい」という願いを込め、励まし続けた。

(左3つ)難関突破を目指し、パソコンを使いハムチャー村の校舎で一流講師の授業を受ける高校生
(右3つ)予備校のカリスマ講師。左から国語のガリフ先生、社会のイモン先生(上)、英語のザハン先生(下)

今までの努力と自分自身を信じ難関大学突破に挑む

日本の東京大学にあたる、バングラデシュの最難関校、ダッカ大学

2010年10月29日、ダッカ大学の入学試験当日を迎えた。「貧しいものは、ダッカ大学には入れない」そんなバングラデシュの常識を打ち破るため、全員で目指してきた決戦の日である。

高校生たちと共に大学に着いた税所さんは、会場に向かう生徒一人ひとりに声をかけ送り出した。試験時間は90分。それぞれが持てる力を出し切り試験は終了した。

1週間後の11月4日、税所さんの携帯電話に運命のベルが鳴った。「ダッカ大学、一人合格!」

マヒンからの電話。税所さんは握りしめた拳を突き上げた。バングラデシュで「奇跡」とまでいわれた快挙の瞬間だった。

その後も生徒たちは頑張り、約30名の参加者中、20名近くが大学に合格し、そのうち4名が難関の国立大学に合格したのである。

あの夏の夜、星空の下で冷たい井戸水を浴びながら、かつての自分の記憶がよみがえり思いついた映像授業。それが、恩師や仲間の協力、そして生徒たちの必死の努力によって大きな実を実らせたのである。

『e-Educationプロジェクト』で、映像教育を受け、見事、ダッカ大学に合格したヘラル君

目標は5大陸での教育改革プロジェクト達成

(左)ルワンダでの化学の映像授業(右上)ルワンダのパートナーと授業を収録する税所さん(右下)ヨルダンでの授業収録の様子

税所さんは今、世界各地で『e-Education プロジェクト』に取り組んでいる。

中東・ヨルダンで訪れたパレスチナ難民キャンプでは、経済的理由で教育格差が広がるバングラデシュと似た状況があった。「映像授業へのニーズがあることもすぐに分かりましたし、生徒たちの学びたいという意欲も非常に強いです」。税所さんは、現地の高校生にリサーチしてハイレベルな先生を探し、今年4月から映像授業をスタートさせた。

アフリカ・ルワンダでは、教育省との連携に向け、現地で仲間を見つけて活動を進めている。新聞にも取り上げられ、仲間たちのモチベーションも上がった。「ルワンダの受験では、理科の実験問題が大きな比重を占めるのに、農村の学校には理科室がありません。そこで、山間部の高校で化学の実験を映像で見せたところ、みな食い入るように見て、この授業を続けてほしいと懇願されました」。どの国でも有名講師の授業は生徒たちを魅了するし、人生が決まる受験は彼らにとって真剣勝負なのだ。

目標は、世界5大陸での『e-Educationプロジェクト』達成。その情熱と行動力で、税所さんの挑戦はまだまだ続いていく。

ITやパソコンを駆使し、常に世界の仲間とコミュニケーションを取りながら教育改革へチャレンジしている
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