CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2010年度受賞

樋口 強さん

「いのちの落語」で届ける笑顔と勇気と明日への希望

「いのちの落語」で届ける
笑顔と勇気と明日への希望

「笑いは最高の抗がん剤」を合言葉に独演会を12年

樋口強さんが、一年に一度開く「いのちに感謝の独演会」。がんの仲間とその家族だけを招くこの落語の会は、2012年で12回目を迎えた。

「一年先をお約束しましょう」というのが会のコンセプトと話す樋口さん。「がんに出会った私たちは、来年のことはなかなか約束できません。でも、一年先に自分でくさびを打って、そこにロープをかけて毎日たぐって行けば、自分のいのちがその一年先につながっていきます」と約束に込めた思いを語る。「その約束が重なって気がつけば12年になりました」と樋口さんは感慨深そうに話す。独演会の日を「私のいのちの更新日」と決めて、毎年足を運ぶ方もいるという。

独演会を当初から貫くテーマは「笑いは最高の抗がん剤」だ。樋口さんは、古典落語などの演目とともに、毎回、がんと出会ってからの経験を踏まえたメッセージを、創作落語「いのちの落語」として高座にかけている。「いのちに感謝の独演会」は、樋口さん自身にもがんに出会った仲間や家族にもかけがえのない心の支えとなっている。

突然失われた日常。そして始まったがんとの壮絶な闘い

1996年、大手企業の新規事業部門のプロジェクトリーダーとしてビジネスの最前線にいた樋口さんは、人間ドックで肺に異常な影が見つかり、すぐさま検査入院することになった。結果は右肺にできた「小細胞がん」。極めて治療の困難ながんだった。樋口さんは医師から、このがんの3年後の生存率は5%、5年後については数字がないことを告げられた。

海外を飛び回って仕事に打ち込んできた日常が突然失われ、壮絶ながんとの闘いが始まった。43歳のときである。

有効な治療法がなく、生存率が極めて低い小細胞がんに対し、樋口さんは手術と抗がん剤治療により体中のがん細胞をなくすことを決意した。腫瘍化したがん細胞の塊を取り除く難手術は、実に9時間に及んだ。また、1クールに1カ月かかる抗がん剤治療は、手術と前後して5回行った。激しい吐き気や苦しみ、副作用は回を追うごとに酷くなり、抗がん剤のパックを見るだけで吐いてしまうほどだったという。そうしたなかでの心の支えは「また仕事がしたい」という強い思いだった。

抗がん剤治療の後遺症の改善や体力の回復を目指し、千葉県九十九里浜の白子海岸で行った砂療法(1998年)

後遺症による全身のしびれを、家族の思いとリハビリでカバー

先に立ってぐいぐい引っ張る「のぞみくん」

入院から9カ月、治療を終えて退院した樋口さんは新たな困難に直面した。抗がん剤治療の後遺症で激しく手足がしびれはじめ、間もなく全身の皮膚の感覚が失われていったのだ。触っても感覚がないからものが持てない。地面に足をつけている感覚がないから歩くことすらできなかった。

妻の加代子さんは、家事によるリハビリを提案した。はじめは食器を洗うにも茶碗を落とし皿をひっくり返す毎日だったが3カ月ほど経つと要領を得てものが掴めるようになり、スプーンで食事ができるようになった。家事によるリハビリは、洗濯物を畳むことから風呂掃除と高度になり、そのぶん体の機能が高まった。家族だからこそ提案できたリハビリだった。

現在、リハビリの中心は新たな家族となったトイプードルの「のぞみくん」だ。毎日樋口さんを散歩に連れ出し、歩くことによる体のリハビリと、外に出て生きる喜びを味わう心のリハビリの、両方を支えてくれている。

「のぞみくん」との触れ合いを通し、家のなかでも自然と体が動き、毎日のリハビリとなっている
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