CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

対談

自分にできる小さな挑戦を積み重ねルワンダのお母さんたちを笑顔に

シチズン・オブ・ザ・イヤー選考委員長の山根基世さんが、2023年受賞者・山田美緒さんをルワンダから帰国中の高知県四万十市に訪ね、シングルマザー支援への熱い想いや前向きな生き方の原点などをお聞きしました。その根底には、地域のお母さんや子どもたちの成長を見守る温かい眼差しとともに、徹底してご自身と向き合う山田さんの姿がありました。

地域のお母さんたちが笑顔で暮らせるために

  • 山根
  • 山田さんは、ルワンダでシングルマザーたちの働く場所づくりや職業訓練などに取り組む「KISEKI」を立ち上げられ、「地域のお母さんたちが笑顔で暮らせる社会をつくる」とおっしゃっています。とても崇高な試みだと感じますが、その想いはどこから生まれたのでしょう。
  • 山田
  • ルワンダに行く前はシンガポールで子育てをしていたのですが、それまでアフリカ、アメリカ、ベトナム、中東など、世界中を自転車で走り回ってパワーと行動力の塊だった私にとって、自分のやりたいことができず苦しんでいた時期がありました。そうした葛藤を抱いてルワンダに来てみると、驚いたことに周りの皆が子育てを手伝ってくれるのです。ここで初めて「子育ては一人でするものじゃないんだ!」と思いました。
  • 山根
  • 山田さんにとって大きな気づきだったのですね。
  • 山田
  • そうなんです。でも一緒に働くシングルマザーたちに話を聞くと、「子どもにご飯を食べさせることができない」「学校に行かせるお金がない」「そもそも幼稚園がない」など、課題が山積しているのがわかったのです。それを聞いて、同じ子育てをする母として自分には少しずつでもその現状を変えていける力があるのではないかと考え、支援活動に一つ一つ取り組むようになりました。
小さなことを積み重ね
諦めずに続ければ
きっと社会は変えられる
山田美緒さん

心に響いた「背負ってはいけない。支えなさい」

  • 山根
  • シングルマザーを支援するきっかけになった女性に騙されていたことに気づいて、大変ショックを受けると同時に、それが山田さん自身の学びにもなったそうですね。
  • 山田
  • 子どもが人工透析をしているということで、私だけでなく地域の方にも寄付を募って支援していたのが、そのほとんどを自分が家を建てるために使っていて、解雇したあともお金を要求されたことがありました。
  • 山根
  • それは傷つきますね。立ち直るのにも時間がかかったでしょう。
  • 山田
  • そのとき、日本でお世話になっていた駐日ルワンダ大使の方が話を聞いてくれて、シングルマザーに対する支援について、「ミオ、背負ってはいけない。支えなさい」と言われたのです。その言葉に本当にハッとしました。「かわいそう」という想いから完全に感情に流されていて、それではいけないと気づきました。
  • 山根
  • 背負うのと支えるのとでは、大きな違いですものね。
  • 山田
  • それからは、自分でその言葉を大事にするだけでなく、地域の人を支える立場に育ってきたスタッフの女性たちにも、折に触れて話すようにしています。「かわいそう、助けてあげたいと思うけれど、私たちのソーシャルな支援活動は、自分たちのポジションでできることをやるしかない」という、その境界線を自分で引けるようになったのは大きな学びでした。
さまざまな困難に直面し、それらを乗り越えてKISEKIを運営する中で、山田さん自身とともにシングルマザーたちも地域を支えるように育ってきた

自分と向き合い信じることで気持ちも前向きに

  • 山根
  • ほかにもずいぶんと騙されたり嘘をつかれたりしたとお聞きしました。そうした困難にぶつかっても、毎回立ち上がって前に進んでいく原動力は、ご自身の中ではどのように育まれたのだと思われますか。
  • 山田
  • もともと負けず嫌いで、むしろ困難が好きなところがあるんです(笑)。アフリカ縦断をしたときに、あえて自分の体を使って前に進む自転車を選んだのもそうなのですが、自分がやると決めたことをやり通すとか、困難にぶつかったときにそれを乗り切ってやり遂げる面白さが好きなところはありますね。
  • 山根
  • そうなんですね。でも、ときにはモチベーションが萎えそうになりませんか。
  • 山田
  • 心の中には日々いろいろな葛藤も生まれるのですが、いつも朝4時に起きて30分くらい自分と向き合う時間をつくっているんです。そのあとジョギングに行って、1時間半ほど体を動かしていると、自転車で何万キロも走ってきた体が、動くと前に行けるのを覚えていて、次第に気持ちも前に出るし、滞っていた思考がクリアになる瞬間があるんです。家に帰ってくると「あ、いいこと思いついた!」って、気持ちの整理ができています。
  • 山根
  • 身体が健康だから、心も健やかなんでしょうね。心身ともに健康で頑張っている山田さんを見ていると、その根底には人間に対する信頼感が伝わってきます。
  • 山田
  • それは、私自身がいろんな人に信頼してもらってきたのが大きいと思います。KISEKIが支援している人もそうだし、お母さんたちもそうだし、日本から来る学生さんもそう。だから私は自分自身もすごく信頼しているんです。
  • 山根
  • ご自身をですか。
  • 山田
  • そのために大事なのは、まず自分にできることできないこと、自分が持っている力や人とのつながりなどをしっかり把握し、自分のポジションを見極めることなのです。自転車でアフリカ縦断したときも、自分の能力と向き合い、正確なリスク情報と向き合い、自分の頭で考え抜くことで、「私ならできる!」と思えるんです。
  • 山根
  • 世間に流布する情報に流されず、自分の目で確かめ、自分の頭で考えることが、きっと山田さんの活動を支える原動力なんですね。
何事も絶対やり切る
山田さんの信念が
信頼の源泉だと思います
山根基世さん
Page Top
Page Top