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シチズン・オブ・ザ・イヤー選考委員長
山根基世さん
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2016年度受賞
堀内佳美さん
理解しあえたことでスタッフも大きく成長
- 山根
- 2010年から、タイで本の素晴らしさを伝えるNGO「アーク どこでも本読み隊」の活動をされてきて、一番辛かったのはどんなことですか。
- 堀内
- スタッフとコミュニケーションがうまくいかなくなった時期があって、それが一番辛かったですね。スタッフから見ると、私は全部分かっていると思うんですよ。でも、実際には見えないので分からないことも多い。見えないことがどういうことなのか見える人には分からなくて、お互いに伝えあわないと分かりあえないところがあるんですけど、向こうからすれば分かっているくせにと思うらしくて。
- 山根
- それは気をつけなければいけないことですね。堀内さんの場合、目が見える人以上に活動をしていらっしゃるから、相手も見えないことを忘れてしまうんでしょうね。それをどう乗り越えたんですか。
- 堀内
- 地域の方が手を差し伸べてくれて、スタッフとじっくり話しあいをする機会を持つことができたんです。そこで、「そんなふうに思っていたなら言ってくれればよかったのに」というように、少しずつお互いの誤解が解けてきて、話しあいも増えました。

- 山根
- コミュニケーションが改善されて、仕事も思った通りの方向に進むようになってきたんですね。じゃあ、子どもたちに読み聞かせしてあげる時間も増えてきているんですか。
- 堀内
- 今は寄付をお願いしたり、アークの運営をしたり、いろんな所で講演をする機会も増えて、それらだけで精一杯な状況なんです。そのぶん、スタッフが育ってきて、子どもたちと関わる仕事は任せられるようになってきました。最終的には現地の人に任せたいと思っているんです。
- 山根
- 子どもとの時間より人材育成とか、アークの仕組みづくりに取り組んでいかなければならないわけですね。
- 堀内
- 子どもたちとの時間を持ちたいのですが、しょうがないですね。アークのシステムをもっときちんとして、福利厚生も確立して、運営資金も寄付に頼るだけでなく継続して入ってくるように変えていかなければならないと考えています。まだまだいろんな分野に、支援が届いていない人たちがたくさんいるので、そういう人たちの橋渡しをしたい想いがあります。

お手本になる人を追って挑戦を続けてきた人生
- 山根
- やはり、世の中の役に立ちたい、人に喜んでもらいたいというのが原点なんですね。例えば、その想いはどこから来ているんでしょう。
- 堀内
- 障害があって助けられるだけの存在というのは、ちょっと重いんですよね。子どもってお手伝いしたいんだけど、「佳美ちゃんはしなくていいのよ」と言われると、子どもながらに傷つくんです。みんなと同じでいたいと思うし、いつも助けてもらうばかりではなく、人に喜んでもらえることができるのを確認したかったんだと思うんです。
- 山根
- シチズン・オブ・ザ・イヤーの受賞スピーチの最初に、「こういう活動をしているのは自分のためです」とおっしゃったのを聞いて、なんて正直な人なんだろうと思ったんです。自分を見つめていらっしゃるんだなと。これまでの人生を振り返って、あれが私の核になったと思う体験や言葉、出会いってなんでしょうか。
- 堀内
- 私に世の中を見せてくれた、本との出会いはものすごく大きいです。本って、困ったときに頼りになるし、私を見捨てない、そんな友達みたいな存在だと思っています。ですから、私に本の読み聞かせをしてあげようと思ってくれた家族には本当に感謝しています。また、人生のいろんな節目でお手本となる人に出会い、憧れを感じながら目指して頑張ってきたことも大きいです。そして何より、目が見えない子どもとして生まれてきたことが、私という人間を決定づけた一番の要因です。目が見えていれば、ずっと高知にいたかもしれません。目が見えなかったからこそ、東京の高校に行き、留学や大学への進学を思い立ち、そしてタイでこのような活動をすることになったのだと思います。
- 山根
- それをプラスに変えていったのが堀内さんの力なんでしょうね。その時々のお手本になる人を、目指し、真似ようとする素直さや学ぶ姿勢が、今ここに堀内さんを連れてきていると感じます。でも、何かに挑戦するとき失敗を恐れたりはしませんか。
- 堀内
- あまり恐れる理由がないんですよね。今33歳で、やっていることが全部だめになっても、あと3回はやり直せるかなと思います。一生懸命やって失敗したならしょうがないと思うことにしています。
- 山根
- 素晴らしい。強いですね。今日は、人生を学ばせていただきました。ありがとうございました。
(敬称略)

