CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2022年度受賞

無戸籍の壁に立ち向かい一緒に生きていく伴走者であり続ける

「放っておけない」。その一心で支援活動に邁進

戸籍がない「無戸籍者」は、法務省によると全国で785人(2023年1月現在)となっているが、実際にはもっと多くの無戸籍者が存在すると考えられている。最も多いのが親が出生届を出さなかったケースだが、戦後に海外から引き揚げた際の入国時の手続き不備や、医師や助産師のいない状況で一人で出産し、出生証明書が取得できないなどさまざまな要因により無戸籍となる人がいる。戸籍が無いと住民票が作れず、国民健康保険に加入できず病院に行けない、進学できない、銀行口座が作れないなど日常生活で多くの壁に突き当たる。さらにマイナンバー制度の施行に伴い、就労できないという問題も出てきている。

こうした無戸籍者に、戸籍や住民票などの取得を支援する活動を2018年から行っているのが、奈良市の市川真由美さん(55歳/NPO法人「無戸籍の人を支援する会」代表)。自営業の合間を縫って全国を飛び回り、相談者の戸籍取得等の後押しをする。活動のきっかけは2016年、マイナンバー法の施行により、自身が経営するイベント用品販売会社の20代従業員に提示を求めたところ「持っていない」と言われた。市役所で確認すると、出生届が出されておらず「無戸籍者」ということがわかった。本人の希望もあり、軽い気持ちで戸籍取得(就籍)の手伝いを始めたが、身分を証明するものがなく、市や法務局などとの話がなかなか進まない。就籍には「いつ生まれたか」という年齢証明が重要であるため、「沖縄生まれ」を手掛かりに出生した病院などを探したが見つからなかった。そこで母親や知人に話を聞き、昔の写真など本人の出生を証明するものを集め、自治体などと粘り強い交渉を重ねた結果、1年8カ月かかってようやく取得が実現した。

市川さんは戸籍などの取得には大変な労力と時間と交渉力が必要であることを痛感。実際に行政から厳しい対応をされ、心が折れてしまう人もいるという。そこで、自分の経験を生かし、無戸籍者を支援しようと、2018年に1人でNPO法人を立ち上げた。市川さんのもとには全国から毎日約3~5件の相談が入る。現在も3人を支援中で、相談対応中の人が6人いる。相談者の事情に合わせ、本人が所属した学校、アルバイト先、民生委員、近所の人や友人・知人などあらゆる関係先を当たり、いつ生まれたのか、これまでどのように生活してきたのかといった証拠を集める。交渉先も、自治体、家庭裁判所、法務局、入国管理局、警察など多岐にわたり、取得まで1年以上かかるのが通常だ。これまで6人の戸籍取得、1人の国籍取得、13人の住民票取得を実現した。

就籍したら終わりではない。就籍すると国民年金保険料の支払いや納税などの義務も生じるため、取得後の支援が必要になる場合もある。無戸籍が障壁になり、学校や勤務先といった団体の中で過ごしたことがない人には、教育と就職のための職業訓練も必要になる。「目の前に困っている人がいれば放っておけない、知らん顔できない。そんな性格だからやっている」と市川さんは相談者の生き方に寄り添い、伴走者として全力で支援を続けている。

表彰理由

戸籍などの取得には大変な労力と長い時間を要する。この支援活動をひとりで、しかもご自身の仕事と両立させながら行っている市川さんの姿に頭が下がる思いだ。無戸籍者一人一人に真剣に向き合い寄り添っていることが伝わる。従業員の戸籍取得の支援がきっかけだが、その経験からすぐにNPOを立ち上げ、支援活動を始めたその行動力・実行力に感動する。無戸籍の問題がもっと認知され、無戸籍者に対する理解が進むことを願う。

受賞コメント

「無戸籍」と言う言葉と「無戸籍者」の存在を、そして私と言う伴走者のいることを知ってもらう機会をくださったことに大変感謝しております。表に出せないことが多いこの事実を抱えた人に、どうやって死のうかと考えるのではなく、生きることを諦めない方法があるということを啓蒙できる場が一つでも増えれば、救える命が増えることにもつながります。今回の受賞で、人を信じて動くことに間違いがなかったと確信が持てました。今後も姿勢を崩さず無戸籍者の伴走支援を続けます。

Page Top
Page Top