大阪市淀川区のNPO法人「CLACK(クラック)」は、貧困家庭の高校生を対象に、パソコンのプログラミング講習を無料で行う学習支援活動をしている。学校の一般的な教科ではなく、プログラミングに特化し、さらにキャリア教育も組み合わせるという、他に例がない学習支援である。しかも使用するパソコンは無償提供で交通費も支給する。この団体を立ち上げ、活動を推し進めてきたのが、理事長の平井大輝さん(26歳)である。
平井さんの活動の原点は自身の生い立ちにある。中学生のときに、父親が営んでいたうどん店が廃業となり、両親が離婚。多額の借金が残った。電気、ガスがたびたび止まり、高校時代はバイトで自分の生活費や学習費を稼ぐ日々で、同級生との置かれている環境の違いを強く実感したという。
2015年、大阪府立大学に入学したが、自分と同じ境遇の子どもたちの手助けをしたいと考え、1年生の4月から3年間、貧困家庭の中高生の学習支援団体(※1)の活動に参加。貧困問題をマクロな視点で捉える重要性に気づき、同大学の子ども家庭福祉学の山野教授(子どもの貧困問題が専門)の授業を受けるなどして知見を広げていった。3年生修了時に1年間休学し、社会や地域が抱える様々な問題の解決を目指すNPO団体(※2)のインターンに。ここでの活動を通して、子どもの貧困支援を事業として取り組む覚悟を決め、2018年6月に数人の仲間とともに「CLACK」を設立した(19年3月NPO法人化)。
平井さんは「お金だけ援助しても貧困の連鎖から抜け出せない」との考えから、将来の人生に必要なスキルを身に付けてもらうため、「プログラミング学習支援で、困難を抱える高校生に自走の力を」を活動のミッションとした。社会のデジタル化が進む中、プログラミングスキルを持つIT人材がますます求められるからだ。また、プログラミングはトライ&エラーの繰り返しで、試行錯誤しながら一つずつ乗り越える経験を積むことができ、考える力や困難を乗り越える力が養えるため、自分で将来を切り拓く「自走」力の習得に役立つ。同時に、将来のイメージをつかんでもらうためのキャリア教育(お金や生活に関する講義、社会人や大学生の話を聞く座談会、IT企業訪問)も行っている。
具体的には、3ヵ月間でプログラミング講習(週2回)とキャリア教育(全5回)を受ける「Tech Runway」で基礎を学ぶ。修了時にはWEBサイトやWEBアプリが自作できるようになるが、さらにスキルアップを望む生徒には、企業インターン、プログラミング講師アルバイトなど実践の場を提供するプログラム「Tech Runway Plus」も設けている。
設立以来、100人を超える高校生が受講した。卒業生には、WEB制作会社の社員や、学童保育でプログラミングを教える、情報専門学校に進学など、スキルを活かしキャリアを積む人たちが出てきており、成果も現れている。今後は、東京をはじめ他の地域にも拠点を開設し、各地の支援団体などとも連携して、全国の高校生を支援していきたいと考えている。「生まれ育った環境に関係なく、子どもが将来に希望を持ち、ワクワクして生きていける社会の実現」が平井さんの願いだ。
※1:NPO法人「あっとすくーる」 / ※2: NPO法人 Co.To.hama
受賞コメント
CLACKは私自身の貧困の経験と、学習支援をする中で感じた「貧困の連鎖をなんとかしなければ」という使命感から立ち上げました。最初は数名から始まったCLACKの活動も今では100名近いメンバーが高校生に伴走するために関わってくれています。しかし、日本全国の困難を抱える高校生に機会を届けるというミッションから考えると、ようやく1合目というところです。これからも一人でも多くの困難を抱える高校生に機会を提供していけるよう精進していきます。素敵な賞をありがとうございます。