CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2019年度受賞

スタートラインTokyo

自分で風を切る喜びを
体いっぱい感じてほしい!

30年の長きにわたり、義足で走る練習会を月1回開催

「足を失った人にこそ、自分の体で風を切る喜びを感じてほしい」

そんな熱い想いで義足ランナーのための陸上クラブ「スタートラインTokyo」が設立されたのは1991年。以来、約30年にわたり休むことなく月1回の練習会を続け、全国から集まる参加者の心と体に寄り添い、走ることで皆が前向きな気持ちになれるよう支えてきた。

設立のきっかけは、鉄道弘済会の義肢装具士だった臼井さんが、新婚旅行先のハワイでスポーツ用義足に出合ったこと。「当時の日本で使用していた義足パーツは壊れやすく、スポーツすることなど思いもつかない時代で、カーボンファイバーでできた部品を初めて目にしたときは大きな衝撃でした」と振り返る。「これを履けば野球やジョギングができるんだ」という説明を聞き、すっかり魅了されたのである。

帰国後、義足で全力疾走する外国人女性のビデオを見た臼井さんは、「義足ユーザーが思い切りスポーツに挑戦できたら、人生がどれだけ豊かになるだろう」とさらに夢がふくらみ、スポーツ用義足づくりが自らの目標となった。

いつも笑顔で子どもたちを指導する選手会長の水谷さん

スポーツ用義足の可能性を実感し陸上クラブ設立へ

ハワイでスポーツ用義足に出合ってから数年後、それまで日本になかった軽くて丈夫なカーボンファイバーの部材がやっと入ってくると、臼井さんはすぐに、スポーツ用義足の開発をしたいと会社を説得。何とか協力を得ることができ、試行錯誤を重ねて研究開発に打ち込んだ。

2カ月後には試作第一号が完成。早速、当時臼井さんが義足を担当していた20代の女性に協力を依頼して快諾を得ると、転倒の恐怖をなくすため自ら伴走をして、スポーツ用義足での試走に見事に成功したのである。そのときの「感動した」という女性の言葉と目に溢れた涙を見て、「走ることがこんなにも喜びと自信をもたらすのだ」と実感したという。

その後、何名かにスポーツ用義足を試してもらい、義足ユーザーの誰もがあきらめていた「走る」という動作が、専用義足と練習指導で克服できることを知った臼井さんは、「みんなが義足で走れる場を作ろう」と決意。1991年、東京都北区にある東京都障害者総合スポーツセンターの陸上トラックを借りて、月1回義足ランナーの練習会を開始したのである。はじめはわずか4人での船出であったが、回を重ねるごとに参加者は10人、20人と増えていった。

臼井さんがハワイで衝撃を受けたスポーツ用義足
試作第1号のスポーツ用義足を履き見事走ることに成功した20代女性

全国から集まる義足ユーザーに、走ることで自信と元気を!

スタートラインTokyoの練習会には、男女を問わず、小中学生から大人まで幅広い年代の人たちが毎回60人ほど全国から参加している。義足で走れるレベルもさまざまで、練習会で初めてスポーツ用義足を履く参加者もいれば、すでに障がい者の競技会などに出ている上級者、さらにはパラリンピックに出場するようなトップアスリートも、同じトラックで一緒に練習している。

メンバーの中にはパラリンピックや国際大会で活躍するトップアスリートも

練習会では、まず日常生活用の義足でストレッチ体操を行い、しっかりと体をほぐしてから、スポーツ用義足に履き替える。そのあとはグラウンドを歩く人もいれば、早々に走り出す人もいて、それぞれが自分に合ったペースで楽しく体を動かすのが、スタートラインTokyo流だ。

そんな参加者の中に、先天性の骨の病気のため生後9カ月で右足を切断し、小学3年生のときから練習会に参加している中学生の男の子がいる。他の子と同じように走ったり、サッカーをしたりできず悔しい想いをしていた男の子はここでスポーツ用義足と出合い、できることが一つ増えるたびに自信がついて、「将来はアスリートを目指したい」と明るく元気になっていった。

年齢も走りのレベルもさまざまなメンバーが楽しく一緒に練習
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