CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2019年度受賞

スタートラインTokyo

一人一人に合わせて義足を調整する臼井さんにはメンバーの信頼も篤い

「練習会に参加することが、生きる力を広げると信じています」

30年の歴史の中には、13歳のとき病気で右足を太ももから切断した女性が、トライアスロンに挑戦したいと練習会に参加して、18年ぶりに走ったケースもある。その後、努力を重ねて「人としてもアスリートとしても成長できている」というその女性は、世界レベルの選手になっている。

一方、遠く秋田県から、「走りたい」との想いで通い続けていた女性が、練習を積んでようやく走ることができるようになったころ腫瘍が悪化して亡くなるという、悲しい出来事もあった。「これまで、そうした辛い思い出も何度かあります。それでも、この活動に参加することが免疫力を高め、『生死』の境界線を『生』の側に広げているのだと確信しています」と臼井さんは前を見つめる。

スタートラインTokyoの練習会に参加し、走ることができるようになることは大きな自信につながり、本人だけでなく、家族も明るく前向きになれるという。近年は、もっと走りたいという人たちのために夜間に週1回の練習会も開催している。選手会長としてクラブの運営に力を注いでいる水谷憲勝さんは、「頑張ったら頑張った分、自分に返ってきますよ!」と、走る素晴らしさをまだ経験していない未来のメンバーにエールを送る。

走ることが自信につながり、皆を明るく前向きに

仲間とのコミュニケーションもメンバーの大きな楽しみ

スポーツトレーナーなどがボランティアでサポート

スタートラインTokyoは会費は不要で、SNSグループに登録することで会員になることができ、現在約220人が登録している。練習会は無償で使用できる施設を利用するため参加費は不要。また、スポーツ用義足は公的な補助がなく数十万円と高額なため個人での入手は難しいが、鉄道弘済会が貸し出しを行うなど、誰もが参加しやすい配慮がなされている。

練習会は代表の臼井さんと選手会長の水谷さんが中心となり、初心者には先輩たちが走り方を指導しており、運動が苦手でも楽しく参加し継続できる雰囲気づくりを心がけているとのこと。「初めて参加したころは自信がなく言葉少なだった方が、いつの間にか新人に走り方を指導したり励ましたりしているのを見るとうれしくて、クラブの存在意義を感じます」と、臼井さんからは笑みがこぼれる。

また練習会では、義肢装具士や理学療法士、スポーツトレーナーなど、専門家がボランティアでアドバイスをしてくれることに加え、義足ユーザー同士の情報交換や、家族や友人に話せない悩みなども相談できるコミュニティになっている。こうした仲間とのコミュニケーションが楽しみで、練習会に来るメンバーも多いという。

初心者も先輩たちの指導でいつの間にか上達

参加者が自信を持ち、夢を抱き、何事にも立ち向かう心を育みたい

近年は、スタートラインTokyoに参加したことが、新たな人生に踏み出すきっかけになり、イラストレーターなどスポーツ以外の分野で才能を開花させているメンバーもいる。

2015年には、義足は隠すものというイメージを変え、かわいい義足でおしゃれをしたいと、女性のメンバーが中心となって石川県中能登町の夏祭りでファッションショーを開催した。それぞれ個性豊かにデザインした義足で堂々とステージに立つと、5千人もの観客からは拍手がなりやまず、会場はいつまでも感動に包まれていた。

女性メンバーが中心となって大成功を収めた義足のファッションショー
撮影:越智貴雄氏

最近は、スタートラインTokyoと同じように義足の練習会を開く動きが全国に広がりつつあるが、障がい者が集う場はまだまだ多くない。「足を失った方は全国に約7万人いますが、スポーツにかかわれているのは500人程度だと思います。われわれも支部をつくりたいですし、行政による支援の必要性も強く感じています」という臼井さん。これからも、参加者が障害を乗り越えて自信を持ち、夢を抱き、何事にも立ち向かっていける心を育んでいきたいと将来を見据える。

スポーツ参加を突破口に障がいを克服するメンバーを一人でも増やすため、スタートラインTokyoの取り組みは続く。

皆が自分のできることでチームを支えているのがスタートラインTokyoだ
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