CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2025年受賞

手作りのお弁当で高齢者との“見守り”、“つながり”を生み出す

高齢者に向け「家庭の味」を届け、住み慣れた地域での暮らしを支える

宮城県仙台市太白区の八木山地区は、急峻な坂道が続く仙台有数の住宅地である。高度経済成長期に整備されたこの地では、進学や就職を機に子どもたちが地域を離れ、次第に親世代だけが取り残されていった。「このままでは高齢化が進み、ひとりぼっちが増えてしまう」。前代表・市橋章子さん(85)を中心とした当時50代の主婦たちの、そんな危機感が活動の原点だった。

当初は月に一度「お茶のみ」を楽しむ場づくりから始まったが、仙台市が高齢者向け配食サービスを公募していることを知り、一念発起。市から借りた空き家を拠点に、1995年9月「ふたばの会」を設立し、手作りのお弁当を届ける活動を始めた。最初は週1回、10食程度を歩いて届ける小さな取り組みだったが、「うちにも欲しい」という声が相次ぎ活動は急速に拡大。6年目には週6回体制となり、30年間で累計45万食を届け続けてきた。現在は、月・水・金の昼食と火・木の夕食を配達しており、65歳以上の補助金対象者は1食550円※で利用できる。
※利用者負担額。別途、市からの助成金が運営を支えている

最大の特長は、主婦が家で作る料理の延長線上にある「家庭の味」だ。農家から毎週仕入れる精米したての米をガス釜で炊き上げ、添加物や農薬に配慮した食材を厳選。冬至にはかぼちゃなど旬の彩りを献立に反映したやさしい味わいは、「味のふたば」として親しまれてきた。お弁当は色とりどりの風呂敷に包み、開く瞬間のワクワク感も一緒に届ける。ドライバーとともに、作った本人が直接手渡し、玄関先で交わす会話は、高齢者の安否確認の役割を果たすと同時に、利用者とスタッフ双方の心の栄養となっている。

30年の歩みは決して平坦ではなかった。介護保険制度導入時には「ボランティアの配食は不要」と告げられたが、利用者の強い支持によって継続できた。2011年の東日本大震災では断水・停電に見舞われながらも、雪の中を山の下まで水を汲みに行き、震災直後の月曜日には活動を再開した。近年のコロナ禍でも歩みを止めず、どんな時でも「必ず届く」という姿勢が、地域からの揺るぎない信頼へとつながっていった。

しかし、30年という長年の活動によりメンバーの多くが80代を超え、市橋さんは2024年7月、「翌年3月で活動終了」という苦渋の決断を下した。そんな窮地を救ったのが、人手不足の知らせを目にしてボランティアに参加した看護師の小川彩乃さん(36)だった。小川さんは、人生の先輩たちが生き生きと働く姿に心を動かされ、「この場所を絶対になくしてはいけない。30年続いたこの会の存続が自分にかかっているのなら続けよう」と継承を決意した。

2025年4月、小川さんが新代表に就任し、ふたばの会は新たな一歩を踏み出した。「家庭の味」の伝統を守りながら、調理工程の効率化を進め、スタッフが無理なく続けられる体制を整備。さらに医療・福祉の知見を活かし、きざみ食やあんかけなどの特別食への対応も始めた。今後は子育て家庭など、あらゆる世代の“食の困りごと”に寄り添う活動にも視野を広げていく。拠点では多世代が交流できるサロン活動も始まり、地域のつながりを育む場としても機能し始めている。

「住み慣れた地域で暮らし続けることができるように」という主婦たちの願いから始まった活動は、“食”を通して“見守り”と“つながり”を生み出してきた。その歩みは次世代へと確かに受け継がれ、これからも八木山の暮らしを温かく支え続けていく。

表彰理由

30年以上にわたり手作り弁当を届け続けてきた活動に深い感銘を受けた。孤独死が社会問題となる中、高齢者に温かい食事を届けることは、栄養の提供にとどまらず、「あなたを見ている」という存在の肯定となり、人と人を結ぶ力を持つ。本来は社会が担うべき役割を補い続けてきたその尊い営みが、いつか不要になる未来を願い、その価値を後押ししたい。また、多くの団体が担い手不足で活動を終える中、その志が若い世代へと確かに引き継がれた点も高く評価し、今回の受賞とした。

受賞コメント

30年前に高齢になっても住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるように会を立ち上げ、お弁当作りを始めました。主婦たちの作るお弁当は評判が良く、点から面に広がり、作る人もボランティアで参加してくれました。作り手が高齢になり、閉会寸前のところで、在宅医療福祉に関わってきた専門職のメンバーが引き継ぎ、また新たなふたばの会として生まれ変わっています。これから先も長く地域を支える温かいふたばの会であり続けたいと思っています。

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