アフリカのルワンダ共和国は、1994年に民族紛争で約80万人以上が犠牲となる大虐殺が起きたが、近年「アフリカの奇跡」といわれる経済復興を遂げた。一方で、貧富の差は大きく、国民の約半数を貧困層が占め、シングルマザーの増加が社会問題となっている。多くは10代でシングルマザーになるため、十分な教育を受けておらず、職にも就けない。
こうした困窮するシングルマザーたちの生活向上を目指し、働く場所づくりや職業教育などを行っているのが、山田美緒さん(41歳)である。現地でソーシャルビジネスの会社「KISEKI」(以下表記「キセキ」)を運営し、各種の支援事業を展開している。そのコンセプトは「地域のお母さんが笑顔で暮らせる社会を創る」。現在35人いるスタッフはすべて現地採用のルワンダ人で、この内、女性は32人で多くがシングルマザーだ。
山田さんは夫の仕事の関係で、2016年に家族で移住した。間もなくキガリ市内で和食レストランを開業し、シングルマザーを雇用したことで、彼女たちの置かれた過酷な現実を知る。「彼女たちの貧困を断ち切りたい」という強い思いが支援活動を推し進める原動力である。
「キセキ」の事業は多岐にわたる。中でもユニークなのが、2018年から始めた「Dress for Two」。アフリカ産のキテンゲという縦5.5メートル、横約1メートルの布地をルワンダ人と日本人が共同購入し、半分に分け合う。購入費は、日本人が多く負担(1万2000円~2万4000円)するのに対し、ルワンダ人は200円程度。布は購入者の希望によって、巻スカートやラップドレスなどに仕立てられるが、縫製をルワンダで行うので、シングルマザーには縫製の仕事で収入が生まれる。そのため、2022年に職業訓練支援として縫製のトレーニングセンターも開設。2023年10月に最初の卒業生を送り出し、現在15名が学んでいる。
母子支援では、2018年に幼稚園の運営を始め、2022年には託児所や子ども食堂を開設。タブレット端末やオンラインによるICT教室も始めた。さらに「The First1000days」(※)プログラムでは、妊産婦ワークショップなども行っている。
一方で、次世代の人材育成にも力を入れている。それが、アフリカでの社会事業活動に関心がある日本の若者に、現地での様々なボランティア体験を提供する有料の「ボランティア・インターンプログラム」だ。「キセキ」の施設でのボランティア活動だけでなく、ホームステイや体験ツアー(スラムツアー、農村体験ツアーなど)もあり、日本から多くの学生や社会人が参加する。コロナ禍で一時中断したが、これまで延べ500名以上が参加した。2017年開始時はお金を払って日本人のインターンを募っていたが、2018年から有料化。基本費用は1週間500ドルで、参加者の中には数カ月以上の長期滞在者もおり、このプログラムが「キセキ」の事業を収入面から支えている。
「私たち日本人がアフリカの人たちの生き方から学ぶことはたくさんある。キセキで学ぶ場を用意して待っているので、挑戦してほしい」と語る山田さん。そのために2024年はオンラインで、2025年は実際に訪問をして、全国の小学生、中学生、高校生、大学生向けの講演や授業を届けたいと考えている。
※子どもの成長にとって重要な、妊娠中から生まれて2歳までの1000日間に集中的に栄養と教育のケアを行うこと
受賞コメント
受賞のことを社員に伝えると、歌って踊って大喜びしました。ほぼ全員が最貧困家庭のお母さんたち。子どもを背負い仕事を探し歩き回っていた過去を思えば、この賞は奇跡です。関わってくれたすべての方々へ感謝の気持ちでいっぱいです。これからも手の届く世界で、今できる最大限の行動を続けたいと思います。