CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

対談

少年たちの更生を願い絵で伝えた真摯に生きる姿

シチズン・オブ・ザ・イヤー選考委員長の山根基世さんが、2021年度の受賞者、飯田和幸さんを北海道帯広市に訪ね、30年以上にわたり少年院で伝え続けた想いや、ご自身がこれまでの人生で大切にしてきたことなどを伺いました。飯田さんの人間的な魅力が心に残る対談となりました。

自分と重なるものを感じた少年たちとの出会い

  • 山根
  • 飯田さんは、帯広少年院で院生の更生や社会復帰を支える「篤志面接委員」として、絵画を通し30年以上にわたり少年たちと向き合ってきました。どのような経緯で、この活動に取り組むようになられたのですか。
  • 飯田
  • アトリエに担当の方が来て、帯広少年院で院生に絵を教えてほしいという依頼を受けたのが最初です。そのときは、絵の指導をするような教育を受けてきたわけではないし、自分の仕事も忙しい時期だったのでお断りしました。しかし、何度もアトリエに足を運んでいただき、1年でもかまいませんというのでお受けしたのです。
  • 山根
  • 少年院に行かれて、少年たちに会ったときはどのように感じられましたか。
  • 飯田
  • 少年たちのいる部屋に初めて入ったとき、「におい」とでも言うのでしょうか。言葉ではうまく表現できませんが、自分と重なるものを少年たちから感じられて、その場がすごくしっくりきたのを覚えています。普段なら人前で話すのも苦手だったのが、少年たちに対してはすっと入っていけました。
  • 山根
  • 「におい」というのは、さまざまな苦労を経験してきた飯田さんだからこそ、その少年たちから感じ取ることができたものなのでしょうね。そうした相通じるものは、絵を教えるようになってからも、伝わってきたのですか。
  • 飯田
  • そうですね。院生たちは私語を慎まなければならないので、私から言葉をかけるだけなのですが、目や仕草を見れば分かり合えるような感じでしたね。私は小さい頃に両親が離婚し、愛情を感じることができなかった母親に、自分のほうを向いてほしくて悪さや同級生との喧嘩を繰り返しました。そういう愛情に飢えたり悪さを繰り返したりする子ども同士だと、お互いにわかる「におい」のようなものがあるんです。
  • 山根
  • だからこそ、少年たちの更生や社会復帰を支える活動を長く続けることになったのですね。飯田さんは少年たちに、「何でもいい、何か一つ夢中になれるものがあれば、人生を諦めないようになる」とおっしゃいます。それもご自身の経験から生まれたことなのですか。
  • 飯田
  • 私自身が「絵」に救われたように、好きなことなら辛くても耐えられますから、何でもいいので夢中になれるものを見つけてほしいという思いで伝え続けてきました。絵を教えた生徒のなかには、少年院を出ていくとき自分の夢を持つ子もいて、月に2回子どもたちに言葉をかけてきたことが、ささやかでも意味があったのかなと思うことがあります。
何でもいい
夢中になれるものを
見つけてほしい
飯田和幸さん

絵を教えながらその奥にある生き方も語りかける

  • 山根
  • 飯田さんが少年院で語り続けた言葉は、多くの子どもたちの胸にしっかり届いていたと私は感じます。画家として自らの道を切り開いて行くなかで、中学校のときの美術の先生になりたいという夢も、高校の美術講師という形で叶えられましたね。そのときはどのような気持ちで生徒たちと向き合ったのですか。
  • 飯田
  • 映画の看板のような、見本とそっくりに描くような技術は教えることができます。でも「絵」は目に見えない心のようなもので、教えることができません。ですから、高校生には絵の具の使い方などは教えるほかは、自分の想像力を働かせ、自分で考えて表現することを大切にするよう語りかけてきました。
  • 山根
  • 「本当に大切なものは目に見えない」という有名な言葉もありますものね。でも、高校生に心のような目に見えないものをどう表現するのかを伝えるのは、とても難しいことではないでしょうか。
  • 飯田
  • 難しいです。逆に言えば、高校生たちにそれを感じさせるものが私にあるかどうかなのです。それが私の心になければ絶対伝わりません。ですから、授業で生徒と向かい合うときは、自分の心を素直に包み隠さず伝えることが大事だと思っています。
  • 山根
  • それは、30年以上続けられた少年院での授業でも変わらないのでしょうね。飯田さんは子どもたちが少年院を出たあとの人生をどう生きるのか、実際に絵を指導しながらも伝えたのでしょうか。
  • 飯田
  • そうですね。例えば、「丸いものというのは表面だけでなく、横もあるし後ろもあって丸いわけだろう。それは人間も同じで、正面だけでなく、横も見て後ろも見なければ駄目だよ。それで本当のその人がわかるんだね」という感じでしたね。
  • 山根
  • 絵を教えながら、その奥にある人としての生き方や人生そのものについても語っていたわけですね。飯田さんの人柄が伝わってくる素敵なエピソードです。
飯田さんの言葉は
少年たちにとって
人生の宝です
山根基世さん
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