CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

対談

自分のペースで壁を乗り越えていく場所

  • 山根
  • 障害のある子どもたちへの支援については、社会も少しずつ変わってきました。なかでも、2012年には放課後や夏休みの支援を充実させるため「放課後等デイサービス」が創設されました。これは、保護者の皆さんをはじめ多くの方の請願が実って実現した制度で、それだけ重要だと認められてきたわけですね。放課後活動は、子どもたちにとって単なる預かりサービスではありませんからね。
  • 村岡
  • そうなんです。ここでの生活や遊びを通し、子どもたちはその子のペースで一つずつ自分の壁を乗り越えていくわけです。先ほど紹介した男の子も、不安な気持ちを高等部の3年間をかけて乗り越えていったのです。そうした問題や困難を丁寧に探り乗り越えていくには、やはり大人の支えが必要ですし、子どもたち同士の関わりも不可欠なのです。私も、人間は本来そこまでしてエネルギーをかけ、自分を育てていく存在なのだと気づかされました。
  • 山根
  • 本当にそう思います。やっとその必要性が認められてきたのですね。村岡さんが理念として語られる、障害のある子どもたちの人格を育てるという言葉にも、私はとても感銘を受けました。
  • 村岡
  • 特に放課後活動だと、授業を受ける学校とは異なり、子どもたちは遊びのなかで自由にそして伸びやかに自分らしさを出せます。だからこそ、私たちも身構えることなく、一人ひとりのいろいろな状況に向き合って、その子の人格を育んでいけるのではないかと思います。
  • 山根
  • 加えて、放課後活動は親御さんたちのサポートにもなっていますね。
  • 村岡
  • 私自身、お預かりしたお子さんの変化の兆しに指導員が気づき、それを保護者の方に伝えるのが、本当の意味での保護者支援ではないかと思っています。このコロナ禍でも、学校が休校になり非常に混乱して家で荒れるようになった男の子がいました。しかし、ちょうど中等部から高等部に変わる時期で「お兄さん」になりたい気持ちが見て取れたので、おやつの買い出しとそれを皆に配る役目を任せ、他の子どもたちとかかわる場面をたくさん作ったのです。すると気持ちもだんだん落ち着いて、その様子を親御さんにお伝えすることができました。

成長のよろこびを重ね一隅を照らし続ける

  • 山根
  • 村岡さんはいつも、障害のある子どもも人間としての奥深さ、豊かさ、尊さは変わらないとおっしゃっています。やはり、それが垣間見えた瞬間や、心のなかにある本当の願いを読み取れたときが、この仕事の醍醐味なのでしょうか。
  • 村岡
  • そうですね。例えば、自分のお弁当を食べた後に他の子のおかずを取ってしまう男の子がいました。私は、その行動の裏側にある人と関わりたいという気持ちを受け止めて、他の子の所へ一緒におかずをもらいに行きました。数回繰り返すと、自分の気持ちが相手に伝わったことを実感したのか、それからは他の子のおかずを奪うことはなくなったのです。おかずを取るのは、自分の気持ちをわかってほしいというきっかけに過ぎなかったんですね。すると、行動も変わってきて、その夏の合宿では私が「お腹が痛い」と言ったら、私の肩に手を置き、顔を覗き込んで心配してくれたのです。そういう瞬間は、人間としての奥深さや豊かさを感じますね。
  • 山根
  • うれしい瞬間ですね。この人は自分を理解してくれていると、感じてくれていたのではないでしょうか。村岡さんご自身が、40年以上この仕事を続けてくるなかで、大切にしてきたのはどんなことでしょう。
  • 村岡
  • 学生時代にこの世界に入ったとき、ボランティア仲間から障害者福祉の父と呼ばれた糸賀一雄さんという方の「福祉の思想」という本を薦められました。そのなかに「一隅(いちぐう)の実践」という言葉があり、一隅を照らし続けることで、社会や歴史につながる生き方ができると書いてあり非常に心を動かされました。今思えば、それが教員を辞めて戻ってきた理由の一つだったのだと思います。「ゆうやけ」も小平のほんの一隅の活動ですが、そこを照らし続ける実践を続けていく勇気をもらいました。いまだに励まされます。
  • 山根
  • 常に一隅を照らす覚悟を持って実践を続けていらっしゃるんですね。これからも、子どもたちを、そして社会を照らし続けられることを期待いたします。ありがとうございました。
    (敬称略)
「子どもたちとのたくさんの出会いと、成長のよろこびが、活動を続けてこられた原動力」という村岡さん。「ゆうやけ」は自分にとって人生の「学校」だと話す
常に全力で子どもたちと向き合う村岡さん。だからこそ小さな成長にも気づきやりがいとなる
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