CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

対談

子どもたちの成長に寄り添いその豊かさ、尊さを支え続ける

シチズン・オブ・ザ・イヤー選考委員長の山根基世さんが、2020年度の受賞者、村岡真治さんを東京都小平市の「ゆうやけ子どもクラブ」に訪ね、障害のある子どもたちに寄り添う想いや大切にしていることなどを伺いました。そこからは、子どもたちも自分自身も成長する仕事の奥深さが伝わってきました。

子どもの行動の裏側にある想いに気づき支えていく仕事

  • 山根
  • 村岡さんは、40年以上にわたり自閉症や知的障害のある子どもたちを見守られてきました。私がとても印象に残っているのは、村岡さんが大学卒業後に中学校の先生になられ、わずか1年で教員を辞めて子どもたちのもとへ戻られたことです。社会的な立場や経済的なことを考えますと、とても難しい選択だったと思います。何が村岡さんをそこに引き戻したのでしょう。
  • 村岡
  • 祖父をはじめ親戚にも教員が多く、何となく自分も教員になるのだろうなと思っていました。ところが実際になってみると、自分はそこにいるのに気持ちはどこかに行ってしまっているのです。大学時代にボランティア活動に夢中になり、そこで初めて自分自身が生かされていることに気づいた充足感が忘れられず、そのやりがいが自分に「帰れ、帰れ」と言っているように感じました。
  • 山根
  • 子どもたちの成長に寄り添ったり、保護者の方に感謝されたりするよろこびが、心に刻まれていたのでしょうね。でも、ひと口に障害のある子どもと言っても、一人ひとり振る舞いが異なりますから、実際に向き合うのは大変ですよね。
  • 村岡
  • 大変なのですが、それがこの仕事の面白いところでもあります。同じ自閉症の子どもでもみな違っていて、想いをどう読み取っていくのか。例えば、人を叩くといった子どもの表面的な行動の裏側に潜む、本当の願いは何なのか。そこに気づいていくのが、私たちの真の専門性ではないかと思っています。
  • 山根
  • そんなふうに、丁寧に一人ひとりの行動の裏を考えて対応するというのは、気力も体力も、そして時間もかかる大変なお仕事ですね。そうしたなかから、内面の叫びのようなものがふっと聞こえてくるときがあるのですね。
  • 村岡
  • そうですね。ある知的障害の男の子は、大好きな指導員といつも一緒にいましたが、高等部になってから急に彼女の髪の毛を引っ張ったりするようになりました。そして、そうした行動のあとはきまって落ち込むのです。それを見て、成長して自分の周りが見えてきたことで、今度は周りから自分がどう見られているのか不安で仕方がないのではないか、好きな人にあたるのは、助けてほしいという内面からの訴えではないかと思ったのです。それで、関係が密だと相手に不安をぶつけやすいので、私が間に入り、その子が好きなアニメを介して一緒に遊ぶうち、それが心の支えのようになったのか、だんだん気持ちが安定していきました。
  • 山根
  • そうしたときに、その子の成長を感じられるわけですね。
ここで育まれた
人間としての豊かさが
人生の大きな支えに
村岡真治さん

ともに問題と向き合い一人ひとりの人格を育む

  • 村岡
  • 何か新しいことができるようになったとか、能力が高まったというのとはまた違う、人間としての確かさや豊かさが育まれてきたことへのうれしさ、愛おしさとでも言うのでしょうか。それが、これから先の人生で、その子の大きな支えになるのではないかと思うのです。
  • 山根
  • 少しでもその子が社会に適応できる力を持ったとき、村岡さんのよろこびも大きいのでしょうね。
  • 村岡
  • それは大きいですね。ある自閉症の女の子は、外で赤ちゃん連れのお母さんを見つけると、走って行ってその赤ちゃんを叩くことがよくありました。私は、彼女は人との関りが乏しく、赤ちゃんを叩いても、「痛いだろう」とか「かわいそうだ」といった気持ちがよくわからないのだと考えました。そこで、何か好きなことを仲立ちにして、人との関係が結べないかと考え、手先が器用な女の子だったので「たこ焼き」を作らせたのです。すると上手にできて、皆から美味しいと言われることで、自分のしたことに手応えを感じられるようになりました。やがて家でもたこ焼きを作るようになり、家族にも喜ばれるうち、相手の気持ちをイメージする力が少しずつ育まれてきて、行動も落ち着いてきたということがありました。
  • 山根
  • やはり、長いスパンで一人の子どもを見守り続けることで、他の人から見たら何でもないことでも、村岡さんだからこそ成長が見て取れてよろこびになるのですね。
  • 村岡
  • 何か数学の公式のようなものがあって、当てはめて答えが出るものではなく、それだけに「実践のよろこび」が感じられるのです。そのよろこびはこれからも大事にしていきたいと思っています。
  • 山根
  • でも、そうした子どもたちの支えになる放課後活動の重要性が、なかなか理解してもらえませんでしたね。
  • 村岡
  • 遊ばせているだけだから、ボランティア活動でいいじゃないかなどとよく言われました。しかし、実際は遊んでいるだけに見えても、その子の内面まで変わってくるのを何度も経験し、続ける価値のある仕事だと実感しました。
心のなかにある願いを
読み取れたときが
活動の醍醐味ですね
山根基世さん
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