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受賞者一覧

2024年受賞

一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)

認知症とともに生き「希望のリレー」を全国に広げる

認知症とともに生き
「希望のリレー」を全国に広げる

同じ想いの当事者が社会を変えたいと設立

「ひと足先に認知症になった私たちだからこそ、次に続く人たちが認知症になったときにも心豊かで自分らしく生きられる社会を実現するために『希望のリレー』を全国に広げていきたい!」

認知症本人が主体となって設立した「一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)」の活動に込めた想いを、長く代表理事を務めてきた藤田和子さん(現・相談役理事)はそう話します。

藤田さんが若年性アルツハイマー型認知症と診断されたのは、鳥取県で3人の子育てをしながら看護師として働いていた45歳のとき。仕事柄、自らの記憶の異常に気付いて受診し早期発見につながりました。しかし、年齢の若さに加え、社会には認知症に対し「何も分からなくなる」「何もできなくなる」といった誤解や偏見が根強く、公表後は周囲の人々に避けられたり無視されたりすることもあり深く傷ついたそうです。

そうした経験から、認知症になってからも生活の工夫や周りのサポートで自分らしく暮らすことができる社会の必要性を痛感し、当事者として地元で声を上げる活動を始めたのです。その後、同じ想いで活動する仲間が全国にいることがわかり、勉強会で東京に集まったときスコットランドに認知症のワーキンググループがあることを知り、それが転機となりました。「一人ひとりの声では変えられないことも、皆が心をひとつに声を上げれば社会を変えられるのではないか」。こうして2014年、JDWGが設立されました。

(左)設立時の共同代表、その後代表理事として長くJDWGの活動に取り組んできた藤田和子さん
(右)2014年、日本初となる認知症当事者の組織「日本認知症本人ワーキンググループ」が発足

認知症本人だからできる活動を積極的に展開

(上)地元の大分県を中心に、積極的にピアサポート活動を行っている副代表理事の戸上守さん
(下)当事者の想いを率直に伝える講演に、全国から依頼が寄せられている理事の丹野智文さん

JDWGの主な取り組みは、認知症本人ならではの視点から行う政策提言や、国や自治体から「希望大使」に任命されて行う認知症に理解を深めるための普及・啓発活動です。さらに講演会やメディアを通じた発信のほか、認知症の先輩として本人や家族に暮らしの工夫や前向きに生きる姿を伝えたり、要望を聞いたりする「ピアサポート」も重要な活動となっています。

副代表理事の戸上守さんは、「この6年で大分県内の17市町を3周ほど回り、多くの認知症本人やご家族にお会いしてきました」と積極的にピアサポート活動を行っています。

56歳のとき認知症と診断された戸上さんは、ショックで1年ほど家に引きこもっていましたが、デイサービスで同年代の仲間と出会い、一緒に農作業やソフトボールなどをするようになって徐々に前向きになれたと言います。そんなときインターネットでJDWGの存在を知り自ら申し込んで参加。ピアサポーターとしての活動が認められ、国と県の双方から「希望大使」に任命されています。

JDWGの取り組みでは、認知症本人による「講演」も当事者が前向きに一歩踏み出す大きなきっかけになっています。理事の丹野智文さんは、12年前の39歳のときに若年性アルツハイマー型認知症と診断され大きなショックを受けました。しかし、いつも元気で笑顔を絶やさない認知症の当事者に出会ったことで考えが一変。その方の勧めで講演をするようになり、講演では周囲に気付きを与える当事者ならではの声を伝えています。「家族は心配から日常生活のさまざまな行動を先回りしてやってくれます。でもそれは『依存』を生み出します。失敗したとしても工夫することで成功体験が生まれ、自信を取り戻すきっかけになるのです。ぜひ、私たちから失敗する権利を奪わないでください」。そんな風に本人の想いを伝える丹野さんの講演には、全国から多くの依頼が寄せられています。

JDWGの本人会員は、それぞれが住み慣れた居住地で自発的に活動を行い、地域の人たちと協力して認知症や当事者への理解を深めている

仲間から仲間へつながっていく希望や元気の輪

今年6月に新しい代表理事に就任した高知県在住の山中しのぶさんは、41歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断され、2年前にJDWGに入会しました。そのときの想いを「自分はひとりじゃないんだ。それぞれの地域で悩み、壁にぶつかりながら頑張っている仲間がいるんだ。そう思えたとき、とても心強くなりました」と振り返ります。

山中さんは民家を改装したデイサービス施設を経営し、「高知家希望大使」にも選ばれています。また、認知症本人が自らの体験をもとに意見交換して暮らしやすい地域づくりに取り組む「本人ミーティング」にも積極的に協力し、「今の自分があるのは高知の仲間との出会いがあり、JDWGとの出会いがあったから。一歩踏み出した先に仲間がいたことで、前に進むことができました」と実感を込めます。

JDWGの発信は着実に仲間を増やしており、長崎県在住の福田人志さんはテレビで藤田さんや丹野さんの話を聞いたことで入会し現在は理事を務めています。調理師をしていた福田さんは料理の味がわからなくなったのがきっかけで若年性の認知症と診断されました。このため、仕事も辞めて引きこもるようになりましたが、「JDWGの皆さんの頑張っている姿に力をいただき、現在はデイサービスで仕事をしながら塗り絵の原画を描いて、展示会も開くことができ本当に元気をいただいています」と笑顔を見せます。

(左)長崎県の福田人志さんは仲間の頑張る姿に力をもらい、塗り絵の原画展を開くまでになった
(右)代表理事の山中しのぶさんは経営者であり希望大使であり、その明るさで皆を元気にしている
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