CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2022年度受賞

市川 真由美さん

無戸籍者の手となり足となりともに生きる伴走者であり続けたい

無戸籍者の手となり足となり
ともに生きる伴走者であり続けたい

身近に無戸籍者がいたことから取得を支援

「夢を持っている人がいて、でも、戸籍が無いことで夢を諦めているのであれば、一緒に夢を叶えたい」

奈良県奈良市在住の市川真由美さんは、イベント用品を扱う店や飲食業を営む一方、全国から相談を受けた無戸籍者の戸籍取得を支援する活動を2018年から続けている。きっかけは、2016年にマイナンバー制度が始まり、自分の店の従業員にマイナンバーの提出をお願いしたこと。すると、一人の従業員がマイナンバーを持っておらず、手続きのため一緒に市役所に行き、そこで無戸籍だということがわかった。

市川さんがその20代の女性従業員に戸籍を取得したいか尋ねると、「欲しい」という返事。「実は、その子には将来に夢があり、そのためにはある国家資格が必要で、戸籍があることが必須条件だったのです。じゃあ、一緒に取ろうと私は言いました」。こうしてその従業員の戸籍取得を支援することにしたのである。

会社を経営する傍ら、2018年から無戸籍者の支援活動を続けている市川真由美さん

支援して知った戸籍取得の想像を超える困難さ

最初は軽い気持ちで戸籍取得の支援を始めたと振り返る市川さん

戸籍がないことの不利益は多く、国家資格の取得以外にも、国民健康保険に加入できず病院に行けないことや、婚姻届けが出せないこと、子どもが生まれても無戸籍になってしまうことなど多岐にわたる。間違いなくそこにいて生活しているのに、「存在しない人」になってしまうのだ。

しかし、実際に戸籍取得の支援を始めてみると、そこには多大な労力と時間、そして交渉力が必要で、並大抵のことではないことを痛感した。「その人が日本人かどうかを誰が証明するのか、そして何歳なのかをどう証明するのか」。まず、そこから始めなければならなかった。

それでも、最初に支援した従業員は運が良かったと市川さんは振り返る。「学校に通っていたので卒業写真があり、卒業証明書も出してもらえます。さらに、教育委員会から学齢簿という書類も出してもらえるので、その子が何歳なのかの証拠になります」。加えて、このときは市役所や法務局の担当者も親身に手助けをしてくれたという。とは言え、戸籍の取得までには1年8カ月かかった。

こうして戸籍取得の大変さを経験した市川さんは、無戸籍の問題に横たわる闇の深さも知ることになった。法務省が公表している無戸籍者の数は2023年1月現在で785人となっているが、実際にはもっと多くの無戸籍者がいると考えられ、「そもそも無戸籍になる原因は多岐にわたり、その人数は数えようがないのです」と言う。

(左)就職の手続きや役所との交渉など、当事者に不安がないよう付き添う
(右)年齢を知る手掛かりになるものはないかなど、あらゆる可能性を探す

戸籍取得を経験した自分だからこそ力になりたい

無戸籍者にはそれぞれに異なる理由があり、生きることを諦めてしまうケースすらある深刻な問題であることを知った市川さんは、「従業員の戸籍取得を支援した自分の経験は、戸籍を取りたいと願っている人の力になれるのではないか」と考えるようになった。こうして2018年、無戸籍者を支援するホームページを開設し、たった一人でNPO法人を立ち上げたのである。

ホームページにはすぐ反応があり、多くは無戸籍の子どもを学校に行かせたいという親からの相談だった。これは、市川さんが市役所や教育委員会に電話をして話をし、その親に対して「何課の何々さんを訪ねていけば手続きできますよ」と伝え、就学につなげることができるケースだった。

そうした活動を地道に続けるうち、さまざまな困難に直面している無戸籍者から相談が入るようになり、市川さんはそうした人を支援するなかで経験と知識を積み重ねていった。例えば、ある女性の相談者は、5年くらい夫婦同然に暮らしている男性がいたが、自分が無戸籍なので、生んだ子も無戸籍になると悩み、子どもをつくれずにいた。しかし、女性から詳しく状況を聞いた市川さんは、「家庭裁判所で申し立てをしたうえで、市役所で手続きをする方法があるはず」と考え、粘り強く市役所に通って交渉。女性の希望を叶える方法に導くことができたという。

(左)活動を知りたいと熊本から来た学生はボランティアにも参加
(右)まずしっかり話を聞くことから始まる
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