
渡辺さんが生まれ育ったのは、現在の山梨県南都留郡富士河口湖町。
「小さいころは家の前を用水路が流れていて、そこで顔を洗って目を上げると、いつも富士山と向き合えました」。そう話す渡辺さんの家は農家で、子供のときから畑仕事を手伝い、夏は羊やヤギの餌になる草を刈り、冬には山に入ってマキ拾いをした。中学生のころには、20kg以上もあるマキを背負って毎日運んだという。「それが、山登りに役立ったんでしょうね」渡辺さんはそう振り返る。
中学卒業を前に父親が病に倒れ、進学を断念。1年間、家の仕事をやってみて、定時制の高校なら通えそうだと母親を説得した。夕方までめいっぱい畑仕事をして走って家に帰り、片道6kmの道のりを自転車で通った4年間。「思えば、小学校から高校まで皆勤賞でした」
定時制高校の卒業式で総代を務め、新聞に取り上げられたことから、渡辺さんは授業料免除で都留短期大学(現都留文科大学)に入学することになった。
短大卒業後、民間企業の勤務を経て神奈川県の公務員試験に合格。新たな人生がスタートした。