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シチズン・オブ・ザ・イヤー選考委員長
山根基世さん
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2018年度受賞
NPO法人 全国不登校新聞社
同じ悩みがあるから心を開いてつながれる
- 山根
- 不登校新聞は、読者の皆さんが共感できることがいちばんの存在意義だということは、私も読ませていただいて実感しました。
- 奥地
- 読者のお母さんたちがメールで交流されている、メーリングリストも同じですね。「学校からこう言われた」「ゲームばかりしている」などの投稿や、「うちはこう対応した」といった情報を共有し合い、「うちだけじゃないんですね」「元気が出ました」といった共感を通し、どんどんつながりが広がっています。
- 山根
- 悩んでいるのは自分だけじゃないと思えること、そしてつながれる仲間がいるというのは大きな救いになりますね。私は不登校新聞を最初に読んだとき、普通は自分の想いをここまで書けないと驚いたんです。でも、同じ悩みや苦しみを味わっている同士だからこそ、心を開いて話すことができる、そういう場なんだとわかってきました。
- 奥地
- 不登校新聞では、親の会の情報をいつも掲載しているのですが、「同じ悩みを持つ方と出会えるかもしれない」「自分に役立つ情報を得たい」と親の会に来られる方もいます。地域の中では不登校の子どもはそんなに多いわけではないので、孤立感を持っておられる親御さんも多いんですね。そういう方に情報を伝えることができるところにも存在意義を感じます。
- 山根
- しかも、不登校新聞には不登校のお子さんや親以外の人が読んでも共感できることが書いてあるんですよね。とても大きな役割を果たしている新聞なんだなと思いました。
- 石井
- それはやはり、当事者視点というのを貫いてきたからだと思います。読者の中には創刊号から読まれていて、共感した記事は切り取って残しているという方もいます。
学校に行かなくても何一つ終わらない
- 山根
- ただ、その一方で不登校の割合は増えていますね。それを見ていると、社会のどこかが子どもたちを苦しめる仕組みになっている気がします。
- 奥地
- 学校というのは学ぶ権利を満たすところですが、子どもは一人一人違いますから、自分の個性にあったところで学び育っていくことが大事だということを、不登校の問題は教えてくれているのです。そして、学校以外の選択をした子どもたちが、差別されたり不利にならない仕組みや意識に変えていく必要があると思っています。
- 山根
- 不登校という形で子どもたちが鳴らしている警鐘を、社会がどう受け止めるかが重要ですね。
- 石井
- 現在は、選択肢に多様性がありません。学校のあり方が多様になってくれば、不登校の問題もおのずと変わってくるのではないかと思っています。
- 奥地
- そういう点では、2016年に文部科学省が不登校を「問題行動」と判断してはならないと全国に通知し、「学校復帰」にこだわらない方針を示したことは大きな進展です。
- 山根
- そうした変化が表れてきた中で、不登校新聞の果たす役割もまた広がっていきますね。石井さんは編集長として、これから不登校新聞をどうしていきたいと思われていますか。
- 石井
- 一つは、子どもたちがそれぞれ自分らしく生きていける多様な選択肢の情報を発信していきたい。そしてもう一つは、自分のミッションとして、不登校になり人生が終わってしまったと感じた14歳の自分に今の自分が何と言ってあげられるかを、しっかり探していきたいと思っています。
- 山根
- でも、石井さんは「学校に行かなくても、普通の未来が待っていて、大好きな人と結婚をしたり、ケンカをしたりしています。学校へ行けなくても、終わったことなんて何ひとつありません」と発言されていて、それが答えになっている気がします。石井さんの今の生き方をそのまま見せることが、すばらしいロールモデルになると思います。
- 石井
- 不登校になったからといって、人生が終わった訳ではないということは、今悩んでいる子どもたちにいちばん伝えたいですね。
- 奥地
- 大事なのはそれぞれの子どもが自分の形で生きていくのを、親や社会が温かい眼差しで見守れることだと思いますね。
- 山根
- 私はこの不登校新聞が、現代の教育制度の中で子どもたちがどんな苦しい想いをしてきたかを伝える貴重な記録になっていて、これはもう文学として残るのではないかとすら感じました。ぜひたくさんの人にも読んでほしいです。本日はありがとうございました。
(敬称略)