そんな市川さんには、自らの幼少期に「助けて!」という声が届かなかった辛い経験があるという。「助けてほしいという声が届かない辛い経験を、誰にもしてほしくない。それだけに、無戸籍の人たちを伴走支援するなかで、願いが叶い一緒に救われた気持ちになれたときは、自分の幼いときの辛い場面を乗り越えたような気がするのです。無戸籍の人たちを支援する活動は、私自身が救われる活動でもあるのです」と話す。
市川さんは、「戸籍を取得することはゴールではなく、そこが新たなスタートラインなのです」と言う。戸籍や住民票を取得すると国民年金や健康保険料を支払わねばならず、納税の義務も生じる。なかには、義務教育を受けたことがなく、これまで働いたことがない人もおり、そのための支援にも市川さんは全力で臨む。
これまでの伴走支援により、7人が戸籍を、13人が住民票を、1人が国籍を取得し、現在も毎日3~5件の相談が寄せられ、常に複数の支援活動が進行している。
「幸せは人それぞれに異なり、その人にとって何が幸せなのかを一緒に考えていきたい」と言う市川さん。自分は困っている人がいたら放っておくことができない性分だと笑顔を見せながら、「これからも、無戸籍者の手となり、足となり、目となり、耳となって、一緒に目の前の壁を乗り越えていく伴走者であり続けたい」と、前を見つめている。